ワイルドで行こう
「矢野君と清家君はホットドック。兵藤君はフィッシュサンド。武智君はクラブハウスサンドが好きだから」
その人それぞれの好物を、本当にその人のためのお土産として作ってくれようとしていたことに琴子は驚く。こんなの大変、無償でなんてとんでもない。もう何が何でも手伝う! 琴子は気合いを入れた。
「最初の一つ目を僕が作るから見ていて」
こっくりと頷くと、マスターがバターを塗り終えた食パンの上に、サニーレタス、オニオンスライスとトマト、ベーコンを手早く乗せて挟んでいく。次はフィッシュサンド。キャベツの千切り、魚のフライを乗せるとオーロラソースをかけ……。そうして一種一種の盛りつけを見せてくれる。
「お願いね」
それだけ言うと、パンの前から離れ奥の厨房へと行ってしまう。ようやっと他の客のオーダーに取りかかれたようだった。
無言でせっせと作っていると、コーヒーカップと琴子が残した皿を持って英児がカウンター席に移ってきた。
「これ。自分のも忘れずに持って帰れよ」
「うん」
なるべくマスターの手を煩わせないうちに終わらせて、他の客のために動いてもらおうと琴子も集中する。
だけれど、そんな琴子を英児がカウンター席からじっと見つめていることに気がついた。コーヒーを傍らに、そして穏やかな微笑み。
「本当に、琴子ってかんじだな」
すぐに『手伝う』とじっとしていない。そのことを言っているのだろう。
「三好親子が二代で手放さないはずだ。琴子はいろいろな部署に回されたと思っているかもしれないけど、俺は違うと思うな。琴子なら、なんでも真っ正面から真面目に取り組んでくれるとわかっていたんだよ」
「……なにも取り柄がないもの。与えられたこと、やっていかないと仕事なくなっちゃうもの。私なんて、特徴がないから辞めてもどこでも雇ってくれないだろうし」
でも英児は琴子を真顔で見ていった。
「俺なら。大内琴子さんが面接に来たら、一発で雇う。俺ならね」
調理をしている琴子の手が止まる……。女としてだけじゃない、生きている姿勢も彼は認めてくれている。匂いという動物的な勘で惹かれあったところもあるけれど、今度は恋人としてつきあってからの言葉。
嬉しかった。今日みたいな衝撃があった日だからこそ、嬉しかった。でも彼を見ると怖いくらい真剣な顔をしている。