ワイルドで行こう

 家族とどれだけ上手くいっているのか。琴子はまだ知らない。だけれど矢野さんが案じている琴子を見抜いてくれたのか『大丈夫。あれでいて兄ちゃん二人と、義姉ちゃん達が助けてくれたり、案外可愛がってもらっているんだよ』と、そっと教えくれた。それならとりあえずは大丈夫なのだろうかと、琴子はひとまず安心して英児自身に過剰に触れないように努めた。
 龍星轟でいつも抱き合って愛し合って夢中になる日々はひとまずお休み。互いの家族の元に戻り、亡き親を弔ってから会うことにした。
 
 送り火を前に、二人で遠出をする約束。その日にやっと英児と琴子は再会。以前話し合った通りに、県外の大橋と島を目指してドライブに出かけた。
 恋人になって初めての遠出。一日中二人きりで、作業着を着ていない英児と一緒に風を切るドライブを楽しんだ。琴子の希望通り、フェリーに乗って小島を一周。オリーブの丘を一緒に歩き、地元出身の元ホテルシェフが経営している小さなレストランでちょっと贅沢なランチコースを食べたり、土産店であれこれ選んだり。本当に恋人らしい一日を過ごした。
 帰ってきたのは日が暮れてから。やはり二人が帰ってきたのは、龍星轟。英児の二階自宅。
 彼の自宅に来たのも、泊まるつもりだった。盆休みで誰も出勤してこないし、明日一日お休み。遠出をした翌日は送り火をする夕まで、彼と過ごすことに決めていた。
 互いに、この日まで家族とじっくりと向き合う盆を過ごしたので、今から本当に『二人きり』。
 静かな郊外にある龍星轟の二階自宅。そこで琴子はいつもの週末のように、じっくりと入浴をして、遠出の疲れを癒す。
 今夜はゆっくり、彼と眠ろう。
「お風呂、お先に」
 寝室に戻ると、英児が窓辺で煙草を吸っていた。
 いつもの遠い目をしていたので、琴子はドキリとする。
 ――何を考えているのだろう。
 あの目の時は、いつも胸騒ぎが起こる。
「ああ、俺も入ってくる」
 ガラスの灰皿に煙草を消し、いつになく神妙な彼が静かに寝室を出て行った。

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