ワイルドで行こう

 彼らしい。世に言われる女が喜ぶようなムードを作らず、こんな、こんな、本能的な愛を分かち合っているときに投げかけるだなんて。でも確かに男と女が何故結ばれるのか、その本質を目の前にして彼女と共に生きていくことを申し込んでいる。本当になんて動物的で野性的で、でも確かに本質通りで……。
「俺はお前と暮らしたい」
 まだ琴子の答えなど気持ちなど確かめていないのに、英児はいつも琴子を泣かせるような激しさで愛し始めている。
 でも琴子はもう泣いていた。涙がぽろりとこぼれて、やっと英児が我に返ってくれる。
「俺、また。勝手に……」
 本当に彼らしい。琴子の気持ちも聞かないで、俺の気持ちをぶつけてしまうところ。そして琴子も……どうしようもない、琴子も同じ。いつもと同じ。こんな一方的で強引な男の首に抱きついて、今度は琴子から口づける。
「英児、来て。そのままいつも通りに。愛して」
 それが琴子の答え。いつも通りに愛して。でも今夜、私も覚悟できているから。
 ――家族になろう。
 そっと囁きあい、いつも以上に互いの身体を強く抱き寄せる。
 その寄せ合う強さも、ただ情熱的に愛し合っている恋人同士とはどこか違った。
 繋がるそこを押し付け合い擦りつけあい、どうすれば男と女の本当の目的が果たされるのか。二人でそんな途方もない見えない何かを掴みに挑むようなそんな意志を貫くような愛し方だった。
 ぐんぐんと押し込んでくる英児の背中を強く抱き寄せ、琴子は爪を立てて喘いだ。
 英児の息づかいもいつもと違う。歯を食いしばって、身体中から溢れ出てくるあらん限りの男の力をすべて、琴子の中に注ぎ込もうとしている。そんな激しさ。
「あ、ああ……ああっん。英児、英児……もうっ」
 ただ涙をこぼして、琴子も首を振る。
「琴子、いくぞ」
 はあはあと息も絶え絶えになってきた英児の額には玉汗が浮かんでいた。琴子も涙ぐんだ目で彼を見つめ、こっくりと頷く。

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