ワイルドで行こう
――これで本当に、私たち。一緒になる。そして、もしかしたら。
琴子の首元に顔を埋め、ただひたすら男の行為に集中する英児を抱きしめる。耳元に我を忘れた男の喘ぎ声が、琴子の胸を熱く貫く――。
「はあ、琴子、琴……」
琴子も目をつむった。奥に熱く注ぎ込まれるその感触を待って……。そうしたら私と貴方の家族が……。とてもドキドキした。
『カチャリ』。
微かな異音? 男と女の湿った空気が二人きりの部屋いっぱいに取り巻く中、なんだか小さく乾いた音。
それは気のせいではなく、英児も気がついたよう。あんなに夢中になっていたのにピタリと彼の動きが止まる。こんな暗闇の中でも英児は何かを察知した夜行性の生き物のよう。素早くタオルケットを引き寄せ琴子の裸体を隠した。
その尋常じゃない警戒した目線が、この寝室のドアへと向けられる。
嘘――。二人だけしかいないはずの彼の自宅に、もう一人誰かがいる!?
恐ろしく警戒した英児の眼差しの先、そこに『人影』。琴子の心臓が止まりそうになる。確かにドアのそこに人がいるのを見たから。
そして英児がもっと信じられないことを薄闇でつぶやいた。
「……千絵里?」
もう琴子は息が止まる! 彼とこんなにも裸で愛し合っている今、彼の自宅の寝室に、どうして彼の元婚約者がいるの!?
その人影がさっと気配を消した。
「待て……!」
混乱している琴子の目の前で、英児はとりあえずパンツを履いて飛び出していった。
『待て、千絵里!』
英児が大声を張り上げて彼女を捕まえようとしているのが、ここまで響いてきた。