ワイルドで行こう
思った通り。母と昼食をすませたら、どしゃぶりの雷雨。
「やだねえ。夕方までになんとか止んで欲しいわね。送り火ができないじゃない」
「止むわよ。いつもそうじゃない」
ほんとうに嫌な夕立。あの日と同じ……。思い出さずにいられない。
「部屋にいるね」
少しでも母に気づかれてはいけないとおもい、琴子は二階の部屋に戻る。
でも少し自分も落ち着いてきた気がした。そこでやっと、電源を切ったままの携帯電話をバッグから取り出した。
電源を入れたら……。着信履歴がどうなっているのか。メールもどれだけ着信しているのか。それとも直ぐにかかってくるのだろうか。
怖かった。どうしてだろう。それでも彼と連絡が取りたいのに。また彼と会いたくなるから? いや、会うと……あの女の人にまた関わらなくてはいけないから?
でもそれって……。既に琴子も逃げている。英児に『貴方がお片づけしてよ。私、知らない』と丸投げして逃げてきただけになる。ただでさえ、傍にいるね――という言葉を裏切ってきたのに。
だから、思い切って電源を入れてみる。
メールなし、着信一件、留守電あり……だった。
思ったより『あっさり』していて、何度も何度も連絡をしてくれただろうと思っていた自分が『思い上がっている』ように感じてしまったほど恥ずかしくなった。そして、すごく拍子抜け。
だけれど、何を言い残してくれたのか。たった一件の着信と留守電。それを琴子は再生してみる。
『琴子、ごめんな。ほんとうに、ごめんな』
苦しそうで泣きそうに震えている英児の声に、琴子の心は痛む。こんな苦しんでいる人をたった一人置いてきてしまった……のだと……。胸が締め付けられた。
『矢野じいから聞いた。琴子が言いたいこと、うん、……わかった。……あのな……』
どうしたんだろう。彼らしくない歯切れの悪さに、琴子は違和感を持つ。
しかも沈黙が暫し。様子がおかしかった。
『言うとおり、一筋縄ではいかないかもしれない。でも心配するな。また連絡する』
それだけ言うと、ぷっつりと切れてしまった。