ワイルドで行こう
カフェのドアを出たはいいが、まだ雷鳴が轟くどしゃぶりのままだった。
「待ってな。車、ここまで持ってくるから」
決断素早い英児らしく、琴子が『あ、私も……』と言う前に飛び出していってしまう。
アスファルトを叩きつける大粒の雨の飛沫が煙る中、英児が走っていく。やがて、あのエンジン音。琴子の胸がときめいた……。そっと目をつむる。あの勇ましい……。目を開けるとドルンと唸るエンジン、キュッと雨の中停車した真っ黒な車がそこにいた。
待っていた。この車が自分の前に迎えに来てくれることを。
運転席から英児が出てきて、雨に濡れながら助手席のドアを開けようとしてくれている。だけどドアが開く前、英児がそこに辿り着く前に琴子はどしゃ降りの中、スカイラインに向かって駆けていた。
ずぶ濡れの黒いボディはそれでも夜明かりにキラキラと勇ましく光り輝いていた。その車体に琴子は額をつけてすがった。
「スカイライン、会いたかった。乗りたかった……。貴方が運転するこの車に、とっても乗りたかった」
「琴子……」
彼の相棒、分身にすがる彼女を見たためか。英児が後ろから抱きすくめてくれる。
「悪かった。お前に……すごく嫌な思いさせた」
そして英児が濡れる琴子の耳元ではっきりと言ってくれる。
「もう離さねえ。どんな状態でも、お前を龍星轟に連れて帰る」
スカイラインにすがる琴子を、英児が力強く自分へと振り向かせる。雨が伝う頬に彼の薄汚れた指先が触れる。とても熱かった……。
「わかったな。なんも遠慮することなんてなかったんだ。俺がそうさせてやるべきだったんだ」
険しい目が琴子を貫いた。固い決意と強い意志の眼から、動揺や躊躇いが消えてる。でもそんな英児の表情が急に歪む。唇を噛みしめ、今度は彼が泣きそうな顔になる。
「お前が優しい女だと知っていたはずなのに、必要以上に甘えてしまった。俺も、お前を、離さなければ良かった……」
だから、戻ってきてくれよ。
正面から英児が抱きついてくる。彼の長い前髪から落ちてくる滴がぽたぽたと琴子の首筋を伝っていく。
どしゃぶりの雨が濡らしていく中、琴子は首を振って英児を抱き返す。彼の背中にしがみつくのではない、彼の大きな背中を足りない腕で思い切り抱きしめる気持ちで。
「私も嘘ついた。一人にしない、何があってもずっと貴方の傍にいるって約束したのに……!」
ごめんなさい。
もう離さない、私も離さない。彼の背中のシャツを鷲づかみにして抱きついた。
「濡れる。とりあえず、乗れよ」
もう濡れてしまって遅いけれど、英児が急いでドアを開けて助手席に琴子を座らせた。