ワイルドで行こう
お義姉さん二人に英児が言われる。『まだ家族じゃないの。家族になるけど、積み重ねてきた時間が違うの。実の子供にやってもらうのだって親はすごく辛いことなのよ。やれば良いことってわけじゃないの』。結婚しても家族になっても、他人加減というものがある。若い二人は結婚することだけ考えていればいい。お見舞い程度でいいからね。お義姉さん達にそういわれ、英児も『見舞いだけでいい』と千絵里さんに言ったのだが……。彼女は『いま親孝行しなくていつするのか』とお義姉さん達と同様に介護に参入しようと聞かなかったらしい。
それから英児の家族と千絵里さんがぎくしゃくし始めてしまい、あっという間に諍いになり、婚約破棄。互いを傷つけるだけ傷つけ合って別れたとのことだった。
英児はいまでも悔やんでいる。『俺は結婚さえすれば、その女のためだとしか思っていなかったんだろうな。家族とどううまく付き合っていけるか、千絵里とあんまり話し合っていなかった』。彼女を守れなかった。最後にそう言って、英児がスカイラインのハンドルに項垂れた。たぶん、わずかに泣いていたと……思う。
そんな英児の背を琴子は助手席から撫でた。そして彼が結婚に踏み出せないのは、他人の家族と関わることを恐れていたことも理由の一つだったと知る。
――『俺。琴子とお母さんに喜んでもらいたくて、田舎蕎麦を勝手に買ってきた時も、千絵里のことを思い出していた。俺だって、喜んで欲しいと勝手に押しつけているじゃないかと』。
琴子も覚えている。あの蕎麦を持ってきた時、母に差し出しておきながら彼が母の顔色を非常に気にしていたことを思い出す。
――『シノに、女だけになった家族に強引に世話焼いてと言われた時も、俺も喜んでもらいたいと大きな世話やいているじゃないかと。その時も千絵里の気持ちはこんなだったのかと、その気持ちに気がついてやれなかったことを悔いてもいた』。
自分が『力になりたい』と我が身になって気がついたこと。そう言えば……大きな世話だったと、気にしていたことも琴子は思い出す。
だから英児は琴子と出会ってなおさらに思う。『俺みたいな男』、『結婚することになって上手くやっていけるのか』。また同じ過ちを犯さないか?
『でも、それは私達母娘にはとっても救いだったのよ。ほんとうよ。だから私と母も、貴方に暖かいお料理食べてもらいたいと、勝手に作って待っていたんだから』
お互い様。そういって背を撫でていると、どこか少年のような顔をした英児にきつく抱きしめられていた。