ワイルドで行こう
「いいの。本当にこのゼットを私のゼットにしてくれるの!」
「ああ。琴子、このゼットを気に入ってくれているだろ。それでいつか……」
「乗ってみてもいい?」
英児が返事をする前に、琴子はもう運転席へまっしぐら。ドアを開けていた。
「運転席座っても良いでしょう」
「お、おう。いいぞ。琴子のゼットになるんだからな」
「英児さんは助手席に座ってみて!」
もうとびきり喜ぶ琴子の勢いに押され気味の英児が、戸惑いながらも助手席にまわってドアを開ける。
その間、琴子は憧れの運転席のシートに身を沈め、シートベルトを締め、ハンドルを握る。英児も助手席に乗り込んだ。
運転席にいる琴子を見て、英児もやっと満足そうに笑ってくれる。
「うん。いいな」
「本当にこのゼット。私のゼットになるの?」
「ああ」
「ありがとう、英児さん。私、指輪よりずっと嬉しい!」
「そっか」
「ねえ、英児さんもシートベルトしてみて」
「なんだよ。そんな本格的な……」
だがその時、琴子はハンドルを握りゼットのエンジンをかけていた。
英児がぎょっとした顔になる。
「ま、まて。琴子」
琴子の手がサイドブレーキを降ろす。足はクラッチとアクセルに。サイドブレーキを離れた手はギアに。ギアを入れ、琴子はハンドルを回した。
「うわー、ちょっと待て! 琴子!! そんなこと、いつ覚えたっ」
発進寸前。英児が慌ててハンドルを押さえた。でも琴子はにっこり微笑む。
「いつ覚えたって……」
ワンピースのポケットから、琴子はそれを取り出し英児の目の前で見せた。
「運転免許、とったの」
『なにいっ』と、仰天した英児が琴子の手から運転免許証と取り去った。それを手元でマジマジと眺めている。