ワイルドで行こう
24.旦那が待っていること、忘れるな。【本編/完】
母が待つ家までほんの少しの距離。庭先まで銀色のフェアレディZは、無事に到着。
「あー、もっと運転したい。ねえ、今日、龍星轟まで運転してもいい?」
助手席で固まって息を切らしている英児が無言で首を振る。
「そうね。いまはまだ英児さんがゼットを運転した方が、きっと気持ちがいいわね」
もう、これぐらいにしておこうかな。琴子は一人笑って、シートベルトを外した。英児もホッとした顔で助手席でシートベルを外した。
「か、帰りは俺が運転するな。それで今日は漁村まで連れて行ってやるからさ」
「ほんと。マスターのところに行くの?」
「ああ、結婚報告。おっさんにもしておかないとな」
だから遠い運転はまだダメです。と言われ、琴子は笑顔で頷いて運転席を降りる。
「いらっしゃい」
待ちきれなかったのか。母が杖をついて玄関から出てきた。そして運転席のドアを開けて出てきた娘を見て、母も仰天の顔。
「ちょっと、英児君っ。琴子にこの車を運転させたの!」
久しぶりに会うなり、母が叫んだので英児が狼狽える。
「この子、仮免を三回も落ちたのよ。まだ取り立てなんだから、あんまり気軽に運転させないで見張っていてくれないと」
え、仮免三回落ち! 英児がまたびっくりして琴子へと振り返る。だが琴子も言い返す。
「車庫入れが苦手で、車庫入れのミスだけで三回落ちただけよ。本免は一発で通ったもの。今だってここまでちゃんと一人で運転してきて――」
「あのね、琴子。英児君が上手に運転しているから、隣で座ってみているだけの自分も出来る気になっているみたいだけどね。そんな気になっているだけで、あんたがあんまり運動神経に反射神経がよくないのは母親の私が一番よく知っているんだから」
「運転は運動とは関係ないわよ。ちゃんとベテランの教官の目で合格したんだからっ。一番怖いベテランの教官に見てもらっていたんだからね!」
母娘が言い合いをはじめ、間に挟まれた英児がおろおろしているのも女二人は気がつかず。そして母と琴子は一斉に英児を見た。
「ちょっと英児君、なんとか言ってやって」
「ちょっと英児さん、なんとか言ってやってよ」
彼を挟んで、いつしかのように……母と娘の言葉が二重奏になる。
英児がそこで急に笑い出した。
「あの、俺も。お母さんと琴子さんの仲間に入れてください。お母さん、俺を息子にしてくれませんか」