ワイルドで行こう

 結婚の挨拶のはずなのに、思わぬ切り出しに母が驚いた顔に。
「やだ、英児君。そうじゃないでしょ。お母さんにじゃなくて、琴子を……娘を……」
 だが英児が仏壇がある部屋を見つめる。
「それは、やっぱりお父さんに報告させてください。お嬢さんをくださいと、親父さんとお母さんが一緒の時に挨拶したいです。俺」
 母だけじゃない。もういない父も『ここに居ますよ』と言ってくれる英児。ついに母が涙ぐんでしまった。
「やあね、英児君ったら。なんなのよ、そのスーツ。格好いいけど、似合っていないわよ。お店のジャケット姿をお父さんにも見せてあげてよ。娘は車屋の嫁になるんだって報告してあげてよ」
「あはは。琴子さんにも同じ事言われて。やっぱ親子ですね!」
 軽やかに笑う英児をみて、琴子と母も顔を見合わせ笑っていた。
 どうぞ、お婿さん。これからもよろしくね。
 母が玄関の扉を開く。そこに英児の手を取って、琴子は一緒に家の中に入った。
『お父さん、娘さんと結婚します』
 俺も家族にしてください。
 仏壇前で英児が正座で頭を下げて、その後静かに合掌してくれる。だけど英児は手を合わせながら急に一人で笑いだし、父の遺影を見て言った。
「お母さんと琴子さん、そっくりですね。お父さん、楽しかったでしょうね」
 これからは、彼も一緒。三人家族。線香の煙がたなびく仏壇前で共に笑いあう今日、この日から。
 

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