ワイルドで行こう

 翌日の営業時間も立ち直れなかった。
「タキさん、なんかあったの」
 高校時代の後輩で店の事務を任せている武智も、英児の異変に気がついた。
 それもそのはずで。社長デスクに座ったままガレージに行かない英児を訝しく見守っていたようだが、昼過ぎてもぼんやりとただノートパソコンに向き合っているので、黙って見ていた武智も業を煮やしたようだった。
「今日はガレージは無理。俺、散漫しているんだ。いま車を触っても、いいことない」
「そういう日が店長にもあるのはわかっているから、まだ皆黙っているけど――。矢野じいが苛つく前に、なんとかしておいて欲しいな」
 武智はいつも店の雰囲気を重視していて、従業員のコンディションには敏感。でもだからこそ、上手くムードを作ってくれる。そんな男だったから、英児の落ち込みようが『すぐに切り替えられないほど落ち込んでいるようで、心配』だったようだ。
 後輩と二人きりの、午後の事務室。親父と兄貴達がいないこの時。英児は、店長ではなく『昔馴染みの先輩と後輩』として昨夜の出来事を武智に話してしまう。『俺のタイプの子だった~』は話したが、彼女を裸にした妄想で失敗したことは勿論省略で。
 すると武智がすぐさま笑った。
「やだな。タキさんらしくない。仕事も手につかず、うだうだしているってことは、彼女にどうしてあげたいかもう心に決めてるんでしょ。昔からそう。タイプの女の子には臆病。それ以外はすごく決断早いのにさ」
 高校時代から英児を知っているだけあって、武智は『どうしたいのか』既に見抜いてくれる。
「……だな。そうだな! 俺、行ってくる。店、頼むな」
「了解でーす。いってらっしゃい」
 ついにその日の午後。英児は店を任せて龍星轟を飛び出していた。
 向かったのはデパート。彼女に似合うコートを探しに行って、ダメモトでそれを届ける!! 嫌な顔をされても、届ける。
 そうでもしなくちゃ、気が済まない。受け取ってもらえなくても、せめて嫌な思いをさせたことだけでも謝っておこう。彼女も嫌な思いのまま一夜を過ごしたに違いないから。
 
< 275 / 698 >

この作品をシェア

pagetop