ワイルドで行こう
何日でも待つつもりだった。でも。翌日の夕、彼女に会えた。
やっぱり英児を窺って、距離を置いて向き合う彼女。それだけで『やっぱ、俺みたいな男じゃダメなんだな』と諦めがついた。
せめてコートだけでも、否が応でも強引に手渡して帰ろうと決めた。
案の定。あんなにお洒落に着こなしていたコートは羽織っていなかった。着古したようなコート姿で、英児はそれだけで本当に心が痛んだ。あんなに似合っていたのに。俺が台無しにしてしまったんだと。
戸惑う彼女が最後に『ありがとう』とやっと受け取ってくれた。間近に来ると、昨夜の匂いがする。でも英児は振り切るようにスカイラインへ乗り込む。
絶対に俺のような男は対象外だろう。俺がどんなに彼女のことを『いいな』と思っても――。
たった一度会っただけの女性。ただそれだけのこと。桜満開の夜、英児はそう何度も割り切って、『琴子』のことは忘れることにした。
忘れた頃に、また会えるとは思わず。でも近寄れずに遠巻きに眺めていたら……。彼女が不自由な母親の世話をしていることを知った。
それで、彼女がどうして疲れ切った顔をしていたかも理解できた。そして母親に手を添えて根気強く耐えているその姿が『思った通り一生懸命で、そして耐え忍んでしまう子』だと感じた。でもそれで決定打……惚れたんだと思う。
だから再会した時、手放したくないと思ったから……。あとは彼女と彼女の母親のために、『なにか手伝えないか』と一生懸命になっていた。
その彼女も、彼女のお母さんも。いまはもう、英児の家族になろうとしていた。