ワイルドで行こう
彼女の趣味に似つかない、龍の彫り物が施してあるハードなデザインのもの。それをいま琴子は喜んで指にはめてくれている。そして英児の指にもお揃いの指輪がある。『結婚まで待てねえよ』と、自分用の『ペア婚約指輪』を作ってしまった。だから、すっかり英児の趣味。整備仕事中は外さなくてはならないが、それ以外では英児も忘れずに指にはめている。そんな男の趣味独りよがりの指輪なのに、琴子は嫌がるどころか笑って指にはめてくれた。『ここだけ私らしくない英児さんらしいものがあって、如何にも龍星轟店長の女ってかんじ』。自分の趣味じゃない指輪なのに、琴子はそこに英児を伴っているようだと喜んでくれた。
揃いの婚約指輪をしている指と指が静かな青い空の下、絡み合う。
「そう思ったから。私も『大丈夫です』と答えたの。……でも、どう報告していいか分からなくて。今日になって」
「そのうちに話してくれるつもりだったんだろ。気にすんなよ。な、」
そう言うと彼女がこっくり頷いてくれたが、自分が決意しない内に婚約者の英児に思いがけない形で知らせることになったので気に病んでいるようだった。
「時間ないからさ、俺もう行くな」
夜、帰宅したらちゃんと抱きしめてあげようと思った。そんなに気にするな。俺達、こんなに愛し合っているだろうと。俺はこんなにお前を愛しているから平気だよと。そうすれば……。
だが英児から握った彼女の指を離そうとしたのに。今度は琴子から握り返してきて離してくれなくなった。
「琴子……」
いや。離したくない。そんな泣きそうな顔をしていたので、英児は驚く。
「私も、午後の仕事なんてクソくらえ……」
一緒にスカイラインに乗って行ってしまいたい。貴方の隣にいたい。
英児の指先をぎゅっと握りしめたままの琴子が、小さな声でそう言った。
「ばっか。お前、いいとこのお嬢ちゃんが『クソくらえ』なんて真似すんなよ」
「また、いいとこのお嬢ちゃんじゃないもの」
「大内のお母さんに俺が叱られるよ。『英児君、ちゃんとしっかり琴子を見てやってくれなきゃダメじゃないの』って俺が言われるんだからな」
「お母さん。英児さんのこと、私の面倒を見るお兄さんみたいに思っているから」
「お兄さんじゃねーよ。旦那になるんだよ」
英児から笑い飛ばすと、やっと琴子も笑顔になる。
「いってらっしゃい」
「おう。行ってくる」
ドアを閉めハンドルを握り、手を振る彼女に見送られながらスカイラインのアクセルを踏んだ。