ワイルドで行こう
汗ばむ背を向け、息を切らしている彼女の傍に英児も横たわる。後ろから彼女の身体を抱きしめ、濡れる黒髪を撫でて耳元に『お疲れさん』のキスをした。背を向けていた彼女も振り返り、今度は英児の胸元に抱きついてきた。
湿った肌をくっつけあい、英児も琴子をぎゅっと腕の中に抱きしめる。
「こんなに愛しあっているのに、出来ないね」
近頃、彼女が気にしていることだった。
「そんな。こうするようになってまだ日が浅いだろ」
彼女と結婚を決めた時から見据えてること。それを彼女は気にしている。
「私……。こんなに愛しあっているんだから、貴方との赤ちゃんすぐに出来るんだって思っていた」
結婚を決めた時から、彼女とのセックスは最後までなにもつけないで愛しあうようになった。だがその後も何度も同じように愛しあってきたのに、彼女の『月のモノ』は規則正しくやってくる。
その度に、彼女が言うようになった。『こんなに愛しあっているのに、出来ないね』と。今夜もまったく同じ事を言いだした。
そんな彼女を今度は柔らかく抱きしめ、英児は黒髪を幾度も撫でてやる。
「あのさ。まだこうして琴子を独占していたいのも、俺の本音な」
「うん……。わかってる」
力無く呟く琴子。何故、そんな落ち込むのだろうか。まだ俺達の結婚生活は始まってもいないし、まだ夫妻として生きていくのもこれからだというのに。
「まずはお前が傍にいれば、今はそれだけで俺は幸せだよ」
でも英児の胸元にいる彼女が納得できない怖い顔になってしまう。どうして。どうして、そんなに焦っているんだよ。問いただしたくなったのだが。
「私、英児さんには賑やかな家族をつくってあげたい。二度と『ひとりぼっちなんだ』なんて言わせたくない。『もうお前ら、うるさい』て怒るぐらいの家にしたいの」
怒ったような真顔の琴子。『それがすぐに叶いそうにないから、もどかしくて怒っている』と言いたそうに。そんな彼女の本気を目の当たりにした気になる。
『貴方の家族を作りたい』。そう願ってくれた彼女の気持ちに、英児は泣きたいほど感激してしまっていた。