ワイルドで行こう
一緒に寝そべっている彼女をさらに抱きしめる。そしてそっと口づける。
「ありがとうな、琴子。でも、今はお前だけで充分だ。ゆっくり行こう」
やっと琴子も笑顔になってくれたのだが。
「四十歳までに、五人産めるかしら」
途端に英児は『ぶっ』と吹き出した。
「すげえ無茶なこと言うな、びっくりするだろ。俺に四十半ばまで、子作りに励めと?」
大人しい顔して、この子は時々大胆なこと言うし、やったりするし。もう英児は絶句。だが琴子はくすくすと、もう楽しそうだった。
だが英児は後で気がついた。琴子のあの焦りがなんなのか。
ああ、そっか。四十歳までに五人産みたいから、早く妊娠したかったのか……と。それはそれでまた感激したのだが。
『待て。あれだけマジでせっぱ詰まるように焦っていたのは。冗談じゃなく本気ってことかよ』――と、気がついて再び絶句していた。
五人の母ちゃんになるつもりなのか? あの可愛らしい楚々とした彼女が? 俺は五人の子供の父ちゃんに? 想像できねえ! せめて、二、三人かと……英児の想像範囲をかーるく上回っていてもうびっくり。
『もう本当に琴子さんには敵わない』。英児はこの頃、よくそう思うようになった。