ワイルドで行こう
4.プリティ・ドラゴン?
特に朝。空気が変わったと思う。
今朝も晴天。買いそろえたばかりのダイニングテーブルで、彼女が作ってくれた朝食を目の前に朝刊を広げる。
もう見慣れた窓の風景はずっと同じなのに、タンカーが航行する瀬戸内の海や空の色が少し違うように思えるのも気のせいなのだろうかと、英児は一人自問する。
「見て見て、英児さん」
朝のゴミ捨てから帰ってきた彼女が、英児の目の前にやってきて手を開いた。そこには『ドングリ』が。
「お店の裏にドングリの木があるでしょう。地面にころころ落ちていたのを見つけたの。いつ落ちてくるか楽しみにしていたんだけど」
とっても嬉しそうな彼女をつい、英児は見上げてしまう。ずっと前から居着いている自分でも、そんなことはまったく気がつかなかったのに、彼女は見つけてきた。
「そういえば、ドングリ……あったよなあ」
「毎年、実は落ちていたんでしょ」
もう何年も前にこの土地に自宅兼の店を建て住んでいる貴方なら知っているのでしょう――と言いたげな彼女には申し訳ないが、英児は首をかしげる。
「落ちていた……んだろうな、毎年。あまり気にしなかったな」
案の定、彼女がちょっと残念な顔をする。
「あれは立派な木よ。元地主さんも土地を買った不動産屋さんもよく残したなあと思っていんだけど」
自分が買った土地ながら、あまり気にしたことがなかった。だから、英児はドングリを握ってきた彼女の手のひらに触れてみる。秋も深まり、朝方の空気も冷たくなってきた。外へ出ていた琴子の手もひんやりしている。英児はさらにその手を握りしめ、ドングリごと包み込む。
「住み慣れているのに気がつかなかったこと。琴子と一緒だから気がつけるのかもしれないな」
琴子の目線もプラスされたから、今までの生活も新鮮。そう伝えると、彼女がにっこり笑顔を見せてくれる。
「これ、飾っておくね」
「おう」
どこから持ってきたのか。洒落た小皿に数個のドングリを置いた彼女が、テーブルにある花瓶の傍に置いた。
女らしい彼女のコーディネイトで、徐々に質素だった英児の二階自宅に彩りが生まれている。そして季節感も。
彼女らしい爽やかな色合いのテーブルクロスとランチョンマット。そして小さなフラワーベースには、ちょっとした季節の花もかかさずに。そして、今朝は小さな皿にドングリ。
だからだろうな、と英児はまた窓に煌めく瀬戸内の海を見る。その色合いが今まで違って見えるのはそのせいなのだと――。