ワイルドで行こう
英児も矢野専務同様に感じているところだった。今までは本当に根っから車好きのヘビーユーザーだけが集う男臭い店だった。オーダーもヘビーで、まあ、車好きの龍星轟メンバーからすれば『ヘビーなオーダー』ほど燃えるわけだが、経営的にはそれだけでは立ちゆかず。英児があちこちの経営者の集いなどに顔を出して、そこでパイプを作って小さな仕事を獲ってくる。という繰り返しだった。新規開拓はずっと課題ではあったが、まさか『嫁さんをもらう』ことになって、その嫁さんが引っ張ってきてくれただなんて――本当に予想外。
だが、そこで矢野じいがちょっとだけため息をついて、腕を組み俯いた。
「ただよ。ちこっと気になっているのが。その女の子達が『リピーター』になってくれるかどうかということだ」
「だよなー。琴子を見て『私も』と思って来てくれるのも、一度だけの物珍しさってところはあるかもな」
「それだけじゃねえよ。俺が気になっているのはよ……」
そこで親父が長袖になった龍星轟ジャケットの袖を指さした。そこには龍星轟トレードマークのワッペンが。
「女の子は、こんなハードなデザインのステッカーは貼ってくれねえってこと。少し前に来てくれた女性も『ステッカーはいらない』ともらわずに帰っていったもんなあ」
この店で整備やチューニングをしてくれたら車を返す時にステッカーを手渡す。しかし矢野じいが言うように、女の子が車に貼るには確かにハードなデザインではある。
「店のイメージはこのハードな龍星轟だと固執すると、新しい客層をこちらから追い出してしまうことになるんじゃないかと懸念している」
「しかしよ。そこは『貼る、貼らない』の自由があるわけだし――」
だが矢野じいが食ってかかってくる。
「バカ野郎。ステッカーが宣伝になる効果を実感しているだろ。興味がなかった女の子でも、町中でよく見かけると記憶してくれているほどだぞ。うちで手入れした車は全部貼って欲しいぐらいの意気込みをみせろや!」
師匠に怒鳴りとばされ、流石に英児はたじろいだ。しかし、である。
「今までこの店の名を広めてくれた車好きの男達のトレードマークでもあるしよ。変えることなんてできねえし、スタンスも変えるんじゃなくて、そこは絶対に残しておきたいだろ。車好きの男が支えてくれた店だぞ」
「俺だって理想はそうしたいに決まっているだろが。それだけでは立ちゆかないから、経営者のお前にどうにかしようぜと言っているだけだ」
「……それは、俺もわかってるよ」