ワイルドで行こう

 こだわったノベルティを予算をかけて作ったが、効果があったのかどうかもわからないまま終わった。しかし手に入れた顧客の中には愛用してくれる者もいるにはいる。英児自身も記念にと大切に保管していたのだが、琴子用の合い鍵につけてあげたりしたこだわりの一品ではあった。
「確かにあのキーホルダーは『龍星轟』らしいわね。私もお気に入り。だけどあれを多数の顧客には無理ね……。しかも使ってくれないままお部屋の引き出しにという可能性も大きそう。宣伝になるかどうか」
 彼女との話し合いの結果、二人の意見は一致。『やはりステッカーが手軽で気軽』ということに。
「今の龍星轟のデザインは、どこでやってもらったの」
「これぞ、と気に入ったデザイナーが東京にいたんで、頭を下げてこれだけはと金をかけて作ってもらったんだよ。だからすげえ納得で愛着湧くもんが出来たんだよな」
「本当に、英児さんのお店へのこだわりなのね。そのデザイナーさんにもう一度、龍星轟にも合う女の子用の『可愛いドラゴン』を依頼できないの?」
 英児はすぐさま首を振る。
「いや。店を開く準備ということで俺もすごいこだわったんだ。マジでこれでもかってくらい金かけたんだよ。それに頼み込むのにすげえ時間かかった。頭を下げるのはもう一度出来るけど、あの予算はいまは組めないな」
「それほど……? でもなんだかわかる。確かに龍星轟のデザインて、このあたりの地方では垢抜けているていうのかな……」
 デザイン事務所にいるだけあって、やはり琴子にもそう見えるらしい。
 しかし。デザイン、デザイン――と話している内に、英児はやっと気がついた。
「あのさ。こういう依頼って。三好さんのところでもやってくれるのかな」
 『え!』と琴子が驚いた。
「龍星轟のステッカー制作を、うちの事務所に依頼してくれるってこと?」
「ああ。どちらにせよ、どこかのデザイン事務所を探さなくちゃいけないわけだし。ひとまず見積もりだけでも出してもらうかな。そうだ。そうしよう。ジュニアさんの事務所がダメでも、この依頼に合いそうな他の事務所を紹介してもらいたいな」
「本当に女の子用のステッカーを作る気なの」
 英児の素早い決断と提案に、琴子は呆気にとられている。
 だが英児は、目の前にいる『可愛い奥さん』になる予定の彼女を見て、ますます気持ちを強めた。
「作るぞ。琴子のような女の子が乗る車にも貼れる龍星轟らしいステッカーをな」
 これも結婚記念だ――。彼女のものになるゼットに似合う『可愛いドラゴン』のステッカーを。琴子に一番に貼ってもらおうと決めた。

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