ワイルドで行こう
「そんな気がしたんだ。なんとなく、この依頼は本多のデザインがいいんじゃないかって」
『本多(ほんだ)』――。雅彦のことだった。そして英児も『やっぱり』と、自分で好みのデザインを選んでおいておののいた。
そして目の前のジュニア社長もわかっていたのか、ふっと残念そうに笑う。
「だからさ……。うちに依頼して良かったのかと、再確認しておきたいんだけど。後味悪い仕事はしたくない。俺が好きな店のトレードマークを制作するオーダーだからさ」
どこか苛ついた様子で、三好ジュニアが煙草をくわえた。だが火はつけない。ただ口に挟んで落ち着きない。
「前カレのデザインしたステッカーと、これからずっと店のトレードマークとして傍に置いて付き合っていけるのかと心配しているんだよ。ましてや、そこの嫁になる彼女の元カレが、これから始まる車屋夫妻の店を支えるトレードマークをデザインしただなんて……。いいのか、それで。滝田君は男としてどうなんだよ。琴子もだ。ずっと気にしていくことになるだろ」
だが、英児は三好ジュニアに答える。
「いえ。とても気に入ったので、こちらでお願いいたします。あとはどのデザイナーをどう使うかは三好さんに一任します。次は本題の、龍と星を用いたサンプルをお願いできますか」
平然と返答した英児の正面にいる三好ジュニアが、口元の煙草をぽろりと落とすんじゃないかというぐらい、唖然としている。
また彼がテーブルに手をついて、詰め寄ってきた。
「琴子と結婚後、もしかすると一生、前カレがデザインしたステッカーとつきあっていくかもしれないんだぞ」
それでも英児も顔色ひとつ変えずに切り返す。
「俺にとって、そんなことはどうでもいいんですよ。俺がビリって震えてしまうヤツに出会いたいんです。その可能性を秘めているデザイナーなら、前カレなんて経歴はかすんでみえる」
ついに三好ジュニアがぽかんとした顔になってしまう。
「雰囲気、似ているんですよね。いまのロゴを作ってくれた東京のデザイナーさんと。俺も、なんとなくそんな気がしたんですよ」
「本多ならやってくれそうだって? それでうちを?」
いいえ、と英児は首を振る。
「どこに頼もうと思ってすぐに思いついたのが三好デザイン事務所で。琴子に頼みたいと告げたあと、その時になってやっと『しまった。前カレがいるんだった』と思い出したんですけどね」
後になって思い出したのかよ――と、ジュニアにつっこまれるのだが。
「気がついて『しまった』と思った後すぐ。こだわりが強そうな男なら、やってくれるんじゃないかと。こだわる男のこだわり頑固ってやつですかね。キライじゃないんで」