ワイルドで行こう
ジュニアが呆れた顔でため息をついた。
「琴子から滝田君がどういう男か聞いていたんだけど『判断するのが早くて妙に直感的、でも的確。それが野性的』だって。なんか、わかった。いまので俺もそう思ったわ。一発で本多のデザインを選んだもんな」
「これぐらい挑発的で個性的じゃないと……。いまの龍星轟のロゴと対にはなれないでしょ」
「確かになあ。しかし、これはまたデザイナーにはやり甲斐あるわ、難関だわ、しかし出来上がれば、街中の誰もが目にする商品になる。デザイナーにもチャンスってわけだ」
ジュニアの心も決まったようなので、英児はパンサーのサンプルを彼に返す。
「次は本題の『龍星轟』のサンプルをお願いします。まだデザイナーは彼と決めたわけではないので」
『わかった』と三好社長もやっと頷いてくれた。
「それから。イメージの条件なんですが。レディスステッカーは、龍星轟のカミさんになる琴子のイメージでお願いしたいんですよ。彼女が貼りたいなら女の子はみんな貼りたい――そんなかんじで」
「なるほど。それはまた、今度は本多にもプレッシャーってもんだね」
それでももうジュニア社長は落ち着いて、手帳とオーダー書に英児の注文を書き込んでくれている。彼も覚悟を決めてくれたようだ。
「まあ。滝田君がここまで割り切ったんだから、前カレもそれ同等に応えられる男じゃないと、この仕事は成立しないってことだな。俺も心してかかるわ」
「よろしくお願いいたします」
その時になってやっと琴子が遣いから帰ってきた。
「俺、帰るな」
「えっ」
あっという間に話が終わっていることを知った琴子が、やはり自分が蚊帳の外に追いやられたことに気がついて、ちょっと哀しそうな顔をした。
「琴子から聞いていたとおりだったよ。なんでも話が早い、確かに即決の男だよ滝田君は。いいよ、見送ってやんな」
またジュニア社長の気遣い……。今度は琴子も素直に頷き、スカイラインへと一緒に来てくれた。
「私も、聞きたかったのに」
ごもっとも。彼女に似合うステッカーを作ると伝えているのだから。
「単純なことなんだよ。ただ前カレがいるからどうするかどうかってこと。仕事の話で支障が出ることは早めに話し合って、ハイお終い」
変に気遣われるのも、琴子が一人で思い悩むのも嫌だったので、英児から切り出す。だから琴子も驚いた顔で黙ってしまう。