ワイルドで行こう
「でもよ。悪いな、琴子。俺の気持ちじゃなくて、俺の閃きが『これだ』ていうんだよ。そこんとこ、俺も雅彦クンとおなじで悪いな」
男の情熱を女の気持ちより優先する。こんな時。
しかし。琴子がもういつもの微笑みを見せてくれている。それを知って意外だと驚いたのは英児のほう。
「滝田社長がそう決めたなら、助手席にいる私はそのまま一緒に行きたい。そう思っているから」
貴方について行きます。そんな琴子の気持ち――。勿論、嬉しかった。だが英児はそれでも『ちょっと違うな』と首をかしげ――。
「助手席だけじゃないだろ? 時々、運転席を奪っていくだろ」
お前、男の隣にちょこんと座っていいなりになるような弱い女じゃないだろ。と、言いたい。
助手席にいる時は、英児と並んで走ってくれる時。運転席に乗っている彼女は自分の意志で前に進むんで行く時。そう思っている。
「でも。このお話では助手席でお供させて頂きます」
英児が好きな柔らかい微笑みを琴子が見せてくれる。
「素敵なステッカー、作りましょう。『これぞ』と感じたデザイナーにお願いしましょう。龍星轟は滝田社長のお店だから、貴方の閃きがいちばん大事。私も英児さんのそんな閃きが好きだから。傍で見ていたい」
三好デザイン事務所の『大内さん』ではなく、いま琴子は『龍星轟店長の女房』の顔になってくれている。
その笑顔に、英児はひとまずホッとしてスカイラインのエンジンをかけた。