ワイルドで行こう
「……あの、今日、仕事中に『あれ』が来ちゃって」
『あれ』? 一瞬なにか解らなかったが、琴子と暮らし始めて暫く、英児もすぐになんのことか判るように。
「あ、そう、だったのか」
「うーん、また『今月も』って、がっかり」
つまり『月のもの』が来てしまい、また愛の結晶が出来ていなかったとがっかりしているのだ。
「だからさ。式が終わってからでもいいだろ。俺だってすぐ出来ることは大賛成だけどさ。本当に出来た場合、ドレスとかどーすんだよ」
「まだ選んではいないけど。お腹がちょっと大きくなってもいいようなドレスにしようと決めているの」
ドレスをまだ選んでいないのに、お腹の子供が出来た時のことは『決めている』とはっきり言い切る彼女。それほどに……。俺の子供を欲しいと思ってくれているんだと。英児だって感激する。
「はあ。いつもの痛み止めを持っていくの忘れていて、仕事中、痛くて痛くて」
「なんだ。そうだったのか。待ってな」
置き薬がある戸棚へ英児が向かう。そこから常備している痛み止めと水を入れたコップを琴子のもとへ持っていく。ソファーに座っている彼女がやっと『ありがとう』と笑顔になる。
だが、薬を飲み干して落ち着いたのか。ローテーブルにコップを置いた琴子が、意を決したようにして傍で立っている英児を見上げる。それでも少し躊躇っている。
「雅彦君が、ちょっと荒れちゃって」
「マジで」
まさか。とは思ったが……。琴子も致し方なさそうに小さく微笑むと、またため息。それどころか英児から目線を逸らすように俯くと、小さく呟いた。
「お前の旦那、なに考えているんだよ。ワザと俺を指名してくれたのか。――と言われた」
「そ、そうなんだ」
なんだか、急激にがっかりさせられた。こっちが正面から直球投げたのに、その球を上手く捕れなかったのかよ。しかも俺じゃなくて、女の琴子に言いがかりつけやがったな。俺が感じたような『わかる男の気持ち』は同等じゃなかったのかよ――と。
「それで、三好社長と雅彦君がやりあって」
「マジで!!」
今度はもっと驚かされる。上司とやりあうほど、嫌なのかよ――! そして、『しまったー。やっぱり俺の独りよがりだったか。三好さんに迷惑かけた』と知り本気で英児は焦り始める。