ワイルドで行こう
「わかった。俺も改めて腹をくくる。そちらに任せる。彼に伝えてくれ。いいもんあがってくるのを待っていると」
「うん。『本多』なら、滝田店長が望む個性的でどこにもないものを描いてくれると思うわよ。だって、それがこの地方では受け入れてもらえなくて悶々と苦しんでいたんだから」
「でも、俺。そういう男、キライじゃない」
「私は。『そういうデザイナー』はけっこう好き。でも男としてはもう興味はない。だって……もう、ひとりしか……」
噛み痕を残した目の前の男、英児を、琴子はじっと見つめてくれ微かに囁いた。『もう貴方しか、見えないんだもん』――と。
これだけ言ってくれたらもう英児もなにも言うことはない。すぐさま『琴子』と彼女の柔らかい匂いがする身体に抱きついていた。
「私の指、赤くなるまで噛んだでしょ。あの痛み、私、忘れないから。ずっとズキズキ、英児さんが『俺のことちゃんと見てろよ』と隣にいるみたいだった」
今日は英児がダメだった。なんだか泣きそうだ。いつもならここで『くそー。アレの日じゃなければ、いま押し倒して裸にするのになあ』――と茶化して笑いあいたいところだが、今日はふざける気になれないほど……。
「どうしたの」
いつもすぐに肌を探して、彼女が困るぐらいに吸い付いてくる強引な男がなにもしないからか。琴子から英児を抱き返してきてくれる。
「俺、メシまだ食ってない」
なんとかやっと言葉を発すると、琴子が驚いて離れた。
「え、待っていてくれたの」
「だからさ。なんか美味いモン食いに行こう。それで、気晴らしにぶっ飛ばしに行こう」
「うん。行く。一緒に行く」
今度こそ。龍と龍の手を繋いで二人は外に出た。