ワイルドで行こう
「俺が運転する」
英児が乗り込んだ車は、彼女に運転させているフェアレディZ。彼女も頷いて嬉しそうに助手席に座った。
よく行くレストランで食事をした後、英児が運転するフェアレディZは高速のインターチェンジへ。
ETCゲートを抜けると、そこはオレンジの灯りに照らされながらも、暗闇の向こうへ果てなく伸びる高速道路。
英児はハンドルを握り、ギアをチェンジしアクセルを思い切り踏んだ。
「ゼットがどんな車か、見てろよ」
エンジン全開のフェアレディZ。愛車の助手席で頷く彼女の微笑み。
高く長く鳴り響くエンジン音。一車線だけしかない地方の高速道路はスピードを出せば出すほど、行く先は狭まる錯覚に陥る。ライトに照らされる中央分離帯の赤い反射ポールが道案内のように現れては消えていく。
それでも英児はギアを切り替え、アクセルを踏み倒す。先が見えない暗闇を。どこへ行くかも決めていない道を。思い立ったその時、突然でも、二人一緒に向かっている。
『今夜はどこに行こう』。行き先なんていつも決まっていない。独りの時からずっとそんな夜を過ごしてきた。
『どこに連れて行ってくれるの』。車をどこへ走らせるか、未だに『行く先不明』という独り身感覚で運転席にいるのに。でも、いまはそのままついてきてくれる彼女がいる。
暗闇の高速を走り抜け、この方角のずっとずっと端っこにある岬までいくことに決める。いつものそこらへんのドライブじゃない。今夜はもっと遠くへ――。
高速を降り、風力発電の白い風車がある海辺の街を走り抜け、英児は琴子を傍に灯台がある最西端の岬を目指し走り続ける。
日付が変わる前に、なんとか岬についた。大きな灯台が暗闇の瀬戸内海を照らしている。灯台まで徒歩で行けるのだが、夜中なので展望駐車場から灯りを眺める。
潮の香、冷たい風。優しいさざ波が聞こえる。海の向こうには漁り火がゆらゆら。それを岬から彼女と見渡す。