ワイルドで行こう
「今度ドレスの実物をみることになっているんですよ。お母さんも一緒に……なんて、どうでしょうかね。俺から、琴子にも言ってみますから」
「あら、そう。琴子が嫌だと言わなければ、それは見てみたいわね!」
やっと笑顔になったお母さん。ご機嫌に珈琲を飲みながら、英児が買ってきた漬物をかじってくれる。
「今夜、うちでお夕食どう?」
「そうですね。いただいていこうかな。店も今日は俺がいなくても大丈夫だと思いますから連絡をしておきますね。あ、それなら琴子が帰ってくるまで、俺、買い物に一緒におつきあいしますよ。車を出しますから」
「そうね、そうしてもらおうかしらね。じゃあじゃあ、今日はお鍋にしよう。ねえねえ、英児君は何が食べたい?」
元気いっぱいに張り切る鈴子を見て、英児も一安心。
近頃はこうして、二人で琴子の帰りを待ってみたりする。その為に英児は寄り道ができる日は、鈴子から夕食を誘われても応えられるよう、夕方は仕事をいれないようにしていた。それは実のところ、矢野じいを始めとした龍星轟の男達も良く心得ていてくれて承知済み。後遺症を残す身体なのに、娘を嫁に出すために独り暮らしを決意した英児の義母になる鈴子の為にと、男達が協力してくれていた。
琴子も鈴子も気にしないよう、それは男達の間でひっそりとやっていること。
琴子にも連絡――。
『え、またお母さんと買い物をしているのー?』
「うん、そうなんだ。実家でお母さんと夕飯の支度をして待っているから。今日はこっちに帰って来いよ」
『うん、わかりました』
そして娘の琴子も、実家に集うのはやはり嬉しいよう。この日の夕、英児は鈴子と夕食の支度をしながら彼女の帰りを待つ。