ワイルドで行こう
希望したとおりに、彼女の手が目の前に持ってきてくれたので、英児はそれを犬のように口にくわえると、抱き合って密着していた琴子の身体から離れた。
真四角のそれは、英児が暫く使わなかったもの。だが必ずそこに忍ばせていて、琴子もずっと前からよく知っている。
それを口にくわえたまま起きあがった英児は、せっかくお洒落に着ていたものを乱されて横たわっている琴子を見下ろし呟く。
「琴子。子供は暫くお預けだ。式をきっちり終えてからだ。いいな。順番どーりに行こうぜ」
くわえている白いビニールの小さなパックを噛んだまま、英児は片手でピッと開封する。
口元で用意したそれは、『俺達のベビー』という望みを遠ざけるスキン。
「やっぱ母ちゃんになる前に、俺のカミさんになってくれなくちゃな。いちばん似合うドレスで綺麗になって、俺のところに嫁に来い」
また英児は眼に力を込め、琴子を見下ろした。だが、琴子がそこで神妙にこっくりと頷いてくれる。
「はい。英児さん」
それを見届け、英児はそっと微笑むと腰のベルトを外し、男の熱情満タンに待ちかまえているものを丸出しにする。そして琴子の素足を大きく開いた。素直に開いてくれた向こうには、同じく男に丸出しにされてしまった濡れる黒い茂み。そこへ英児は強く侵入する。
彼女が着ているものをすべてとり払い、彼女の肌という肌を自分の身体に密着させる。こすり合う彼女の肌と英児の男の肌。そこにこもった熱から、あの甘酸っぱい匂いが微かに広がったのを英児は胸に吸い込んだ。
なにもつけないで愛しあった方が皮膚と皮膚が溶けあってそれは目眩がするような熱愛に溺れることができる。
でも、そんなもの。もしスキン一枚、彼女の皮膚と溶けあうことができなくても。それでもこんなに気持ちよく、そしてエロく愛しあえるんだと証明するよう英児は必死になった。
そのせいか。普段は控えめな琴子もいつになく乱れてくれたように思えた。英児の指先の責めに、執拗な唇の責めに、濡れるだけ濡れる身体。頬も真っ赤にして琴子は泣いてくれた。
愛し終えた後。濡れた瞳でじっと見つめられると、もう英児はそれだけで『ほんと、なにもいらねえ』と彼女だけいればいいと逃がさないようきつく抱きしめてしまう。
――しかし、英児の脳裏に少しだけ不安が残っている。
夏からずっと。幾度も彼女の中に生々しい男の熱愛を注ぎ込んでも子供ができないのは何故か。
いままでの、琴子以前の『彼女達』にも同様のことを幾度かしたことがある。だが、やはりそんなことにはならなかった。
それって。もしかすると『俺が原因なのでは』と微かに思っている。
それは流石にまだ。琴子にも言えずにいた。