ワイルドで行こう
「寝込んでいるってさあ。風邪? それとも……」
「それとも?」
もったいぶられ、英児は眉をひそめる。が、次にはすぐに武智も口にした。
「妊娠しているとか」
前触れもなく言われたので、英児はびくっとおののいた。
「あれ。やっぱ、身に覚えがあるんだ。だよねえ、タキさんが『我慢できる男』には見えないもんな」
「ま、まさか」
つい最近『順番通りにいこーぜ』と、きちんとガードをするようになったものの、それ以前の『結果』はどうかというと微妙なところ。次の『月のもの』が来たら今月もダメだったと答が出るのだが。
「妊娠をしようと思ったら、市販薬の服用も気遣うらしいからね。俺の妹も妊娠が分かった時、ちょっと前に知らないで頭痛薬を飲んじゃったと騒いだりしたもんな。実際には大丈夫だったんだけど。飲む時期によっては、受精した卵子が着床をしないで終わったり、流産したりとかあるらしいよ」
「そ、そうなのか」
「琴子さん。しっかりしているから、それを気にして『症状が出ても、風邪薬は控えた』とかあるかもしれないし。本当に妊娠をしてぐったりしているのかも。あれって『うえ』て吐き気が来て知るばかりじゃないらしいよ。ある日突然がくっとだるくなるらしいんだよ」
それも出産経験済みの妹からの話らしい。
「……ちょっと、様子をみてくる」
途端に不安そうになった英児を、武智もうんうんと頷いて二階自宅に戻してくれた。
自宅に戻ると、眠ったはずの琴子が起きてダイニングテーブルでなにかをしていた。
パジャマの上に白い毛糸のカーディガンを羽織って、眼鏡をかけた顔で何かを探している。彼女の手元を見ると薬箱!
武智に教えてもらったばかりだったので、英児は慌てて琴子の元へ駆け寄った。
「琴子、なんの薬だよ。それ」
みると良くある鎮痛剤――。
「どこか痛むのか」
働きに出たはずの彼がいきなり戻ってきて問いただす勢いに、眼鏡の琴子がたじろいでいる。
でも英児はそんな眼鏡をかけている琴子の顔を見て、ハッとした。
「もしかして……お前、熱あんの?」
ぼんやりとした眼差し、潤んだ瞳、そして頬が真っ赤だった。慌てて額に手を置くと。
「すげえ熱じゃねーかよ!」
「大丈夫……」
と琴子はいうが、消え入るような小さな声。でも彼女も英児の顔を見た途端ちょっと気が緩んだのか、そこにある椅子をひいてぐったりと座り込んでしまう。