ワイルドで行こう
 
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 琴子は始終ぐったりしていて、足取りもふらっとしていた。そんな彼女を抱きかかえ、なんとか龍星轟自宅に戻し寝室に休ませる。結局、琴子は一日会社を休むことに。
 事務所に戻ると、矢野じいも心配そうだった。
「琴子、大丈夫だったか」
「ああ、うん」
 神妙に案じている矢野じいが、英児にふと言った。
「午後になって琴子が少し落ち着いて、お前も仕事の途中でもいいからよ。母ちゃんのところに預けた方がいいんじゃねえか。どんなにお前との同居が順調でもよ。やっぱ、家を出たばかりだからよ、こんな時は慣れている母ちゃんに任せたほうがいいかもしれないぞ」
 今度は親父からの思わぬアドバイスに、そこまで考えつかなかった英児は戸惑う。
「でも。鈴子お母さんは、足と手先が……」
「娘に食わせる食事の準備を毎日していたんなら、娘のちょっとした看病ぐらい大丈夫だろ。つうか、気持ちの問題だ。琴子も母ちゃんにみてもらえば安心して休めるし、母ちゃんも娘が見えないところで熱にうなされていたら心配するだろ」
「それでも俺達はこれからどんなことがあっても二人でやっていかなくちゃいけないだろ。俺だって、看病ぐらいできるよ」
 だが矢野じいは首を振って否定する。
「馬鹿野郎。結婚して直ぐに『夫妻でなんでも出来る』なんて自惚れんな。しかもお母さんがすぐに同居を許してくれたから既に新婚みたいに暮らしているけどよ。やっぱ、家を出てたった二ヶ月程度なら、こんな時は実家に帰した方がいいぞ」
 琴子にも聞いてみな――と、言われた。
「……わかった。聞いてみる」
 どこか釈然としないが。だが矢野じいがその顔で『こうした方がいいぞ』ということに反抗するとろくなことがなかったのがほとんど。若い時はそれで反抗をして失敗して反省もしたが、今は聞き入れて言われたことを試してみる柔軟さをもてるようになった。だからこそ、英児も飲み込んでみる。
 
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