ワイルドで行こう

 香世。高校時代は目立たなくて大人しくて、眼鏡をかけた静かな女子高生。自分と違って、きちんとしていて真面目で静かで慎重で。そんな女の子に英児はずっと前から弱い。年頃になってそんなタイプにかっちりはまったのが香世だった。
 顔見知りの武智や篠原、そして元ヤン仲間の同級生たちに背中を押され、やっと告白をしたら『私、髪を染めている不良みたいな人とはつきあえない』が香世の返事で、あえなく玉砕した青春。
 だが武智がいちいち『香世ちゃん、香世ちゃん』と英児に言うのは、それから後にあった彼女との関係にある。
 二十歳になり成人式をキッカケとした同窓会で彼女と再会した時。大人しくて目立たない彼女は相変わらずの真面目な眼鏡っ子のまま。そんな彼女だから恋人もなかなかできないようだった。それでも年頃。そんな彼女から英児に近づいてきて『滝田君、いま彼女いるの』という問いかけから、今度は男女の関係に一気に発展。互いに『初めての相手』となったという馴れ初めが。
 だが、そこは年頃の複雑な女心。当時もまだ茶髪に赤いメッシュを入れて粋がったヤンキースタイルだった英児は、既に矢野じいの店で働いていて常に薄汚れた作業着で油まみれ、その上、峠をがんがん攻める生粋の走り屋で車に夢中だった。勿論、香世も助手席に乗せてあちこち連れては、野郎共に紹介をした。だが、どの男も英児同様、粋がったスタイルの男ばかり。そんな男の世界が香世には馴染めなかったようだった。
 破局はすぐだった。半年ぐらいだったと思う。やはり彼女から『英児君みたいな男性はダメみたい』と断ってきた。英児も彼女の煮え切らない様子をひしひしと感じていたし、二度目のお断りだったので納得した。
 要は。とにかく男と付き合ってみたかったのだろう。年頃の女の子故の焦りだったのではと思い返す。目立たないから地味だから、華やかな女の子達のように思いっきり前に出られないから、なかなか男性から声をかけてもらえないし、自分から声もかけられない。思うように彼氏ができない。それなら、私を好きになってくれた滝田君なら……と思ったのだろう。そうしてヴァージンを卒業して、彼女は英児の元から去って、本当の女として歩み始める。
 そんな懐かしい関係。以後、彼女とは『同窓生』という間柄以外なにもない。だけれど、どうしたことか。妙に腐れ縁で、英児のことを思い出しては連絡をくれたり、店の客になってくれたり。『良き友人』になっている。
 いま、彼女は三児の母。希望通り、黒髪の真面目なサラリーマンと早々に結婚して、もう長男も中学生になったと聞いている。
 
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