ワイルドで行こう

6.『お母さんね、彼の車にやってみたの』ってなに!?

 思いがけない『蛍ドライブ』。帰りは真っ直ぐに、自宅へと彼が送ってくれた。
「じゃあ、お母さん。気をつけてくださいね」
「滝田さん、本当に有り難うね。おばさん、とっても嬉しかった」
 母からの礼に、はにかむ彼を見ると、ちょっと無邪気に見えてしまい琴子もそっと微笑んでしまう。
 そしてあっという間に、黒いスカイラインが去っていく。
 母も感無量のように、彼の車が見えなくなるまで手を振っていた。
「蛍、綺麗だったね。お母さん」
 だが振り返った母が、妙に険しい顔で琴子に詰め寄ってきた。
「琴子、電話番号の交換していたでしょ」
 え、車の中から見られていた!? 
 『しまった』と、琴子は母から目をそらす。でも、互いに大人なんだからもういいじゃないって言いたい。
 しかし次に見た母はニンマリ、意味深な笑み。
「でも、琴子ったら絶対に自分からはなにも言えそうになさそうだから。お母さんちょっとね、やってみたの」
 やってみたって、なに? 琴子は不安になる。この不安感、久しぶりのような気がする。以前の母がなにかをやらかす時に見せた『悪戯っぽい笑み』だと思ったのだ。
「まあ、あとでわかるわよ。流石に疲れちゃったわ。さっさとお風呂に入ってもう寝るわ」
 急に? 杖をついていても自らスタスタ……とでも言いたくなるような足取りで、自分で玄関を開け家に入る母。
 やだ、この不安なに。お父さん、助けて。そんな感覚。
 そして案の定、それは的中する。
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