ワイルドで行こう
「だから。私は最初から、英児さんがどんな男性でも好きよ――と、言ったわよね。忘れちゃったの?」
「忘れていねえよ。でも……俺が俺自身が納得できた。もう琴子には俺だけ、俺には琴子だけ。琴子だったから俺の傍にいてくれるんだって。もう絶対に譲らない」
今度の琴子は笑っていない。じっと英児を見つめ、真顔。怖いくらいの真顔。
そんな琴子がぎゅっと英児の背を抱いた。
「そんなこと。もうずっと前からそうじゃない。忘れたなら、思い出させてあげる」
ずっとずっと、英児さんが好き。これからも、これからも英児さんを愛している。
今夜は彼女からのキス。くっと胸元から背伸びをする彼女に唇を塞がれていた。
もう……それだけで、英児は目眩がして倒れそうだった。彼女に抱きついた時、それは彼女を逞しく抱く男ではなく、支えてくれる彼女にしがみつく寂しがり屋の男だった。
「琴子……。今夜も、俺と、眠ってくれよ」
あったかい素肌で隣にいてくれ。柔らかい肌で俺を安心させてくれ。ぬくもりを、ずっと俺の傍に――。
やはりもう、俺のもの。これは俺のもの。待てない。
彼女の頬を包み、くれた口づけを英児からも熱く返す。
英児の中に強い衝動が生まれていた。
―◆・◆・◆・◆・◆―
その決意は、英児のポケットに忍ばせて。
「いいお天気で、よかった」
スカイラインの助手席でご機嫌の彼女を乗せ、今日は南部地方へと出かけた帰り。
後部座席には『日吉村の田舎蕎麦』。彼女の父親が好きで良く買っていたという田舎の市場まで行ってきたところ。晴れ渡る海岸線を伝って、市街へ帰るところだった。
英児も琴子も無事に仕事納めを終え、年末年始休暇にはいったところ。英児はいま、大内家の正月準備の手伝いをしている。
大内家では英児がいるだけで『久しぶりに賑やかなお正月になりそう』と、母娘が言ってくれる。
女二人だけでは手が届かない外回りの大掃除をすれば喜んでくれ、琴子と鈴子母と一緒に正月料理の買い物にでかけたりしている。
そして明日はついに大晦日。その前に、日吉村へ年越しのための蕎麦を買いに出かけたところだった。