ワイルドで行こう
――乾杯。
婚姻届を挟み、二人は思いがけない祝いの一杯で乾杯をする。
「これ。酒は入っていないっていうけど、ちゃんとカクテルだ。名前の通り、ちょっと苦みがある」
「そうなの。私も飲みたい」
琴子にも味見をさせてみたりする。そうして二人で味わっていると、マスターが戻ってくる。
「お供にどうぞ。今日、港市場で見つけた鯛で作ったカルパッチョ。そしてご注文のピザ。珈琲は食後に淹れ直しますからね」
おまけのひと皿まで出てきて、二人でまた感激。そのカルパッチョがまた美味しいから、琴子が大喜び。
「マスターのお料理ってぜーんぶ美味しい」
上機嫌の琴子が、そこで妙なことを口走った。
「こんなお店で、結婚パーティーとか出来たらいいのに」
思わぬことを言い出したので、英児も、いや、マスターまでもが『え!』と驚き固まった。
「おい、琴子。それはいくらなんでも。食事はフルコースのレストランにするんじゃなかったのか」
「……そうだけど。私、マスターのお料理をみんなと一緒に食べたいって急に感じちゃって。そうよね。人数だって、内輪のみといってもマスター一人では大変だものね」
するとマスターが小声で言った。
「……したことはあるよ」
え。と、英児と琴子はテーブル側に立ちつくしているマスターを見上げた。
「結婚パーティーを引き受けたことはある。でも、この村民どうしの結婚で、」
ぼそぼそとこぼしたマスターの言葉に、琴子の目がこれ以上ないってくらい輝いた。それを見てしまった英児に、ドキッとした奇妙な予感が!
「あの、では、もし、お願いしたら……」
あの琴子がちょっと興奮しているので、英児はますますおののく。こいつ、まさかまさかここで? 本気?
「いや、その。店にあるような簡単な料理のみ。しかも村で結婚する若者もいなくなったし、するなら街中でするでしょう。僕が何件も引き受けていたのは十年とか十五年とかそんなずっと前で……」
「その時と同じで構いません。私、家族同士でわいわい出来るパーティーがしたいんです。かしこまらなくて、気取らないパーティー。でもなかなかそんなイメージが湧く、お店がみつからなくて」
プランナーとの相談でも、どんなプランも気が乗らない様子で話を進めなかった琴子が。ものすごい食らいつく姿に英児は驚愕。
そして……。そんな彼女が言い放った言葉を聞き、英児は琴子の本当の気持ちを知ってしまう。
探していたんだ。とことんこだわっていたんだ。俺の家族と琴子の家族が緊張せずに賑やかにうち解けられる場所を――と。
それを知ったら、英児も琴子が『ここだ』と決めたがる気持ちが通じてくる。