ワイルドで行こう
「おっさん。俺からもお願いできないかな。琴子がそれでいいなら、俺もかしこまったレストランより、店の者もよく知っている美味い店がいいや」
「え、英児君まで」
そして琴子が立ち上がる。いつものあの言葉をついに言い放った。
「私、パーティーを準備するお手伝いをしますから」
でた。お手伝いします――。
マスターも、迷いを見せている。でもマスター自らも、パーティー会場を探している花嫁に投げかけたのだ。それはつまり『それほどここを気に入ってくれているなら、僕のところでお祝いしてあげたいよ』という気持ちの表れだと英児は思った。
だから英児も立ち上がって、マスターに笑顔で言う。
「俺も手伝う。俺もここで、おっさんが作る地物の美味い料理で、家族と楽しみたいと思う」
夫になる英児も気持ちを一つにしてくれたので、琴子がとても嬉しそうな顔をみせてくれる。
そしてマスターは。
「わかった。引き受けるよ」
いつもの懐でっかい熊親父の笑みで、マスターが受け入れてくれた。
ではまた後日、相談――。
ということで、その日は漁村を後にした。
海辺の帰り道、スカイラインの助手席で琴子は急にやる気に燃えていた。
そのうえ、あんなに結婚式の計画を進めなかった琴子が次々と言い出す。
「私、教会をやめて神前にしようと思うの。ドレスはマスターのお店の披露宴で着ようかなって」
え、神前? 教会が憧れだったんじゃないのか。琴子と市内の教会をこれでもかというくらい見学した英児は、その心境の変化に唖然とさせられる。
だが……。ふと助手席の琴子を見ると、どこか寂しそうに俯いている。
「琴子?」
「ごめんね、勝手ばかり」
英児は溜め息をつく。
「そんな、俺だって今さっき、勝手に婚姻届を突きつけたのに。お前、気持ちよく受け取ってくれて。でもよ……、教会でするのが夢だったんじゃないのか。それでいいのか」
そして英児は、何故、彼女が計画を進められなかったのか。その真相を知る。