ワイルドで行こう
「……お父さんがいないから。お父さんとヴァージンロードを歩きたかったから。代役でもなくて一人で歩くのでもなくて、お父さんが良かったの。踏ん切りがつかなくて……。でもやっと諦めついた、かな」
振りしぼるように微かに呟いた琴子の気持ちに、英児の胸は激しく貫かれる。
スカイラインを晴れ渡る青い海辺の路肩へと英児は駐車する。
「琴子。お前……。なんだよ、そんなこと早く言えよ。なんだよ」
助手席で俯いている琴子を、英児は胸元へぎゅっと抱きしめ黒髪を優しく撫でる。
すると、やっと。琴子が声を詰まらせ涙を静かに流していた……。
「わりい、琴子。なんも気がついてやれなくて。だよな、それって女の子の夢、だったよな」
「……この歳になって、子供っぽいて……」
「言わねえよ、言うもんか。うん、わかった。そうしよう、俺と一緒に神さんの前に行こうな」
胸元で涙に濡れる彼女がこっくりこっくり何度も頷く。
そんな琴子を、英児は彼女の父親の分までと思いながら、強く何度も抱き返す。
―◆・◆・◆・◆・◆―
新年、あけましておめでとう。本年も龍星轟一同、この店を盛り立ていこう。社長の自分からもお願いします。えっと、最後に『琴子と入籍』しました。未熟な二人ですが、どうぞ今後もよろしくお願いします。
龍星轟仕事始め。今年最初のミーティングで報告すると、従業員一同が『なんだってー!』と驚きの顔と声を揃えた。
だが矢野専務だけは落ち着いて驚かず。でもむすっとした顔。
「ったくよう。大晦日のクソ忙しい晩によ、『今日の昼、琴子と入籍した』なんて報告してきやがって。おまえ、大人になってもどんだけ鉄砲玉のままなんだよ。琴子はもうお前の無鉄砲さに付き合うのはお手の物かもしれねえけどよ。琴子の母ちゃんとか滝田の親父さんを、あんまりびっくりさせてやるなよ」
矢野じいにだけは電話で報告。勿論、驚いていたが『お前らしいな。琴子も琴子らしいな。クソ英児のやることドンと受け止めてくれたんだろ』。見通されていてぐうの音も出ない。
だがやっぱりこの師匠親父は、こんな時でも英児の気持ちを見過ごさない。
『滝田の親父さんと喧嘩にならなかったか』
悪ガキ末っ子の無鉄砲。落ち着きのなさ。突拍子もない突っ走り。それを知ると実父が執拗に英児を責めて説教をすることを、矢野じいは良く知ってくれている。そして親子関係がこじれて、英児が実家に寄りつかなくなる。
だが――。