ワイルドで行こう

『大丈夫だった。琴子が親父に――どうしてもいま入籍したいのでお願い致します――と、俺が言いだしたことなのに自分が言いだしたみたいに頭を下げてくれた』
 そうしたら。昔気質で石頭の父親が、それだけで『わかった』と笑顔で許してくれたのだ。
 もちろん英児自身も『俺が言いだしたことを、琴子が受け入れてくれただけで。彼女を巻き込んだのは俺だから』と説明した。
『そんなのわかってるわい。こんなこと琴子さんからは絶対に言いださんことやからな。お前の仕業に決まっているだろ』
 いつもの嫌味くさい物言いに、やっぱり腹が立つのだが。そこはやっぱり今までと違うのは彼女がいるから。
 とにかく。父親は『琴子はきちんとしているお嬢さん』だと分かっているので、琴子が間に入ればそれだけで機嫌が良くなる。『お前にはもったいない、もったいない』と言って控えめな琴子を見ては、何が嬉しいのかにこにこになる。
 だが、同居している長男嫁の義姉は言う。
『おとうさん。英ちゃんがやっと、きちんとしたお嫁さんを連れてきたから、あれでも嬉しいのよ。相変わらず素直じゃないよね。お義母さんも、あの性格に苦労していたもんね』
 英ちゃん、琴子さん。おめでとう。お正月においでね。みんなでおめでとうのお祝いしよう。
 義姉の言葉に、琴子も嬉しそうだった。
 鈴子義母も『まったく。あなた達らしいったらねえ。いいわよ、いいわよ。好きにしなさい』と、最後にはもうけらけらと大笑いして許してくれた。
 
 ――晴れて夫妻になる。
 彼女はもう英児の妻。『滝田琴子』。そして、龍星轟のオカミさん。
 
「もうー、ほんっとびっくりすんな。新年早々、滝田社長の挨拶が『入籍しました』だもんなー。休み明けにどんな爆弾投下するんだって、もう」
 武智も呆れているが、最後には眼鏡の笑顔で『おめでとう』と言ってくれる。
「じゃあ、ついにあのゼットが琴子ちゃん名義になるってことだな」
「滝田琴子か。走り屋野郎共も、まだ見たことない男共は早く紹介しろと騒いでいたから、今度、ダム湖の集会に連れて行ってやれよ」
 『やっとだな。おめでとう』。兵藤兄貴に清家兄貴も落ち着いて祝福してくれる。
 英児もやっと実感、笑顔になれる。
 最後。専務と目が合う。
「しっかりやれよ、クソガキ」
 素直には祝ってくれない怖い目は、気合いを入れて嫁さんを守っていけよという……矢野じいだからこその激励だと英児は思う。
「ああ。ちゃんとするよ。クソ親父」
 そこでやっと矢野じいが微笑み、バシッと英児の背を叩いて終わり。
 言葉なんていらねえ。それが矢野じいの『おめでとう』だった。

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