ワイルドで行こう
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仕事始めの一日。正月休暇中に車を走らせてばかりいた連中から早速、整備のオーダーが舞い込んでくる。
整備は矢野じいと兄貴達に任せ、英児はオーダー整理に没頭の一日。それだけじゃない。
『本年もよろしくお願いいたします。本日、そちらに伺ってもよろしいですか』
雅彦から連絡があった。さらなるサンプルが出来たので見て欲しいとのことだった。
昼下がり。その雅彦が、クーパーにのって龍星轟にやってきた。
「いらっしゃい。わざわざこちらまで来ていただいて、すみません」
「いいえ。室内にこもってデザインばかりしているので、たまには外の空気も吸いたいんですよ。程よいドライブも出来ますし」
気分転換に事務所を出られる良い口実だと、相変わらずの洒落たスタイルで爽やかな笑みを見せられる。だけれどもう、英児の心に揺れは襲ってこない。
「あ!」
雅彦が急に英児を指さした。
「びっくりしましたよ。今日、休暇が明けて仕事初めの事務所のミーティングで『大晦日に入籍しました』なんて、大内さんが、いや、滝田さん……が言い出したりして。社長もその時、初めて聞いたみたいで。もう余程驚いたのか興奮しちゃって、ちょっと騒然としたんですよ」
雅彦も、なんだか興奮しているように英児には見えてしまう。ものすごいニュースを持ってきたと言わんばかりの。でもそのものすごいニュースの張本人が目の前にいるわけで、英児も苦笑い。
「あー、俺も今朝。店の連中に報告したらそんなかんじで」
「いやー、彼女から聞いていたけど。本当にこうと決めたらまっしぐらなんですね。いやー、また滝田さんに度肝を抜かれちゃいましたよ。これで二度目」
元カレとは思えないさっぱりした笑顔で言われ、英児の方が戸惑ったのだが。そこでやっと、雅彦がふっと笑顔を曇らせる。
「俺だったら、ここまで彼女をリードはできなかっただろうなと……」
滝田さんだから、琴子をここまでひっぱって、ついに夫妻になった。
そう言われていると英児には伝わってきた。どう返せば? おめでとうなど言われても困るし、雅彦だって男の意地があるなら前カノの夫に祝いなど言いたくないだろう。
「サンプルを見せてください」
そう切り出すと、急に彼らしい目つきと笑顔に。
「そうでした。見てください、これ!」
彼は根っからデザイナー。まだ嫁は要らない、自分の世界を全うしたい生き方を選んだ男。それを本人も分かっているだろうし、英児も男だから分かる。そこはもう……。