ワイルドで行こう
白い革張りの応接ソファーに座り、ガラステーブルを挟んで二人で向き合う。
テーブルの上に仕上がったサンプルの原稿を並べる雅彦。
「今回は5点。俺がデザインしたものと、俺がイメージしてそのイメージを俺以上に描いてくれるデザイナーにも作らせてみました」
チーフとなったからなのか。琴子の話から『独りよがり』というイメージだった雅彦が、上手に人を使っていた。
確かに。前回、三好社長が『龍と星』をテーマにしたレディス向けサンプルとは明らかに雰囲気が変わっていた。
あれこれ試したことが窺える。だが、英児は顔をしかめる。
「どうですか、滝田さん」
「うん。正直、前よりばらつきがあって、イメージが遠のいた気がするな」
はっきり言ってみる。こちら龍星轟としても真剣にど真ん中のものが欲しい。依頼主なので譲るつもりはないから、はっきり言う。やはり途端に、雅彦も表情を硬くした。
「そうですか。いえ……なんとなく、そんな気がしたんです」
『だけれど』と、英児はその中の一枚を手にして雅彦に差し出した。
「これ。ちぐはぐしているけど、なんとなく……。俺と琴子が混じっている気がするかな」
雅彦がそれだけでハッとした顔に。
「これ。俺が描いたものです」
「やっぱり、本多君が描くものが一番理解してくれている気がする。これ前よりインパクトはないけど、でも、男と女が混じっている気がする」
前回、龍星轟の男共が選んだ艶やかで色香があるデザインと、琴子が選んだガーリーデザインを合わせたようなものだった。龍に色気がある、それに合わせている女性のシルエットは可愛いだけで色香はない。そういうちぐはぐ感。
「前回、こちらの従業員の男性陣と琴子さんが選んだものがまったく違うタイプだったとお聞きして。今度はそれを合わせてみたのですが」
そこで英児はこの男に『参った』と思わされたことをぶつけてみる。
「前回のサンプルは、あまりにも異なるデザインをワザと二種類、作ったみたいだけど。荒っぽい男の俺と女子いっぱいの琴子は同じものは選ばない。趣味がかけはなれすぎている。一発で気に入るのは『滝田はこのタイプ』、『琴子はこのタイプ』と書き分けた様にも見えたんだけれど……」
目を見張る雅彦。
「ええ、そうです。そうなんです、その通りなんです。あの時は、どうしても、二人を合わせたものが思い浮かばず描けず……。だから二種類」
「それだけ。俺と彼女がかけ離れていて、交わることはないと……」
そこで雅彦が黙ってしまう。本心はそう思っている。デザインがしにくい、やりにくい仕事だ。そう言いたいのだろうか? 英児は彼の静かな眼差しを見てそう感じもしたのだが。