ワイルドで行こう

「それをいま、探しているんです。もう少し、デザインをさせていただけませんか。そこまでは俺も掴んでいるんですけど」
 琴子の中の『龍』。そう聞いただけでぞくっとした。
「それ、俺も見てみたい。琴子の中の龍を――」
 それを描き出せるのは、プロの仕事。雅彦だから成せるもの。
「勿論です」
 依頼した男と、受けた男の意思疎通。今日はそれだけで終わってしまった。
 却下になったサンプルを雅彦が片づけている。
「ところで。滝田社長はこのお店をつくるとき、龍と星をイメージに使ったわけですけど。琴子さんをイメージするシンボルがあれば、また良いかと思っているのですが」
「なるほど。俺が龍なら彼女はなにかということですか」
「それが彼女の龍を描く補助的なものになれるかと思うんですよね。たとえばですね、ご主人が奥さまを花に例えるなら何か。花でなくとも何か……というものがあれば」
「花ですかー」
 なんだろう。と、英児は首をひねって考えてみるのだが。
「うーん。花なら鈴蘭?」
 初めて出会った夜に感じた匂いが、清々しいイメージだったから。
「ああ、何となく分かりますよ。華やかじゃないけど白くて可憐で密やかに咲くってかんじ」
 元カレゆえに同意してくれるのかと思うと複雑なのだが。それでも雅彦はそれを手帳にメモしつつも、難しい顔。
「龍と合わせるには、線が細くて儚い気がしますね。それに直ぐに走り去ってしまう車のステッカーに描くことを考慮すると、鈴蘭はあまりにもインパクトが薄く女性全般をイメージするにはちょっと個性的かな」
 琴子限定なら鈴蘭もいいが……という。やっぱりもう元カレではなくデザイナーとしての意見。英児も納得。インパクトに欠ける気がした。
「滝田社長、お客様がいらっしゃったみたいですけど」
 後ろで静かに事務仕事をしていた武智の知らせに、英児もガラス張りの事務所から外へと目線を向ける。店先に真っ赤なアウディが入ってきたところ。

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