ワイルドで行こう
11.そこに、ワイルドベリー。
武智が開けたドアに、琴子より小柄な女性が溌剌とした笑顔で入ってくる。応接ソファーにいる英児と目が合うなり、喜び一杯の顔。
「初めまして。琴子さんの後輩で、上甲紗英と申します」
『上甲紗英(じょうこう・さえ)』。確かに。琴子が『さえちゃん』と呼んでいたバリキャリ女子の彼女だった。
英児も席を立ち挨拶。
「初めまして。滝田英児です。彼女から、地方新聞社にお勤めで、とっても頼りがいある方だと聞いております」
見るからに活発そうな雰囲気で溢れている。そんな紗英は英児を見てずっとにこにこ。
「やっとお目にかかれました。あの琴子さんが運転免許を取ったり、フェアレディZに乗って来ちゃったり。そこまでさせてくれた男性なんてすごいなって、もうもう早くお会いしたかったので、とっても感激です!」
うわ、本当にぽんぽん喋る子だぞ、これは。
普段は控えめな琴子を相手にしてるだけに、英児はたじろいでしまう。
「本日は当店へどのようなご用でしょうか。あちらのお車、なにかお困りですか」
ひとまず『客』と見て用件を尋ねてみると――。英児ばかり見ていた彼女が、やっと雅彦がいることに気がついた。
「あ、本多さん」
英児の目の前で、雅彦もあからさまに顔をゆがめている。もう言葉も交わしたくない様子だった。だからここは英児から。
「俺が、彼のデザインを気に入ったので、」
そこまで言うと、
「龍星轟の女性用ステッカーのデザインを依頼した――ですよね?」
彼女が英児の言葉の先を言ってしまう。
なにもかも知っている様子で、英児は絶句――。
すると紗英は小脇に抱えていたペーパーバッグからなにかを取り出し、英児に差し向けた。
透明なセロハンに包まれリボンをかけられた鉢植え。
「ご結婚、ご入籍、おめでとうございます」
どうやら、その鉢植えは『結婚祝い』ということらしい?
「とりあえずで申し訳ないのですが、どうしても今日、心ばかりのお祝いを届けたくて……」
「そうでしたか。わざわざ、有り難うございます」
初対面の、嫁さんの友人からお祝いのお届け物。戸惑いながらも、英児はそれを快く彼女の手から受け取った。