ワイルドで行こう

「出来たら、紗英さんの手から琴子に渡した方が良かったのでは。あ、お車のこと……ご用件は」
 改めて訪問してくれた訳を聞いてみると、紗英がそっと首を振る。
「いえ。わざと、琴子さんが不在の時間を狙って、滝田さんを訪ねてきたんです」
 それ、どういうことか。と、首をかしげる英児なのだが。
 また小さな彼女が目をきらっと輝かせ、満面の笑みで英児に言った。
「実は、琴子さんが考えている『内輪だけの親族披露宴』とは別に、『友人主催の披露宴』をしようかと思っているんです」
「え、友人主催?」
「琴子さんから、内輪だけの結婚式をするとお聞きしています。あまり大きな披露宴にはしたくなかったのだと。そのことは、私も他の先輩も事情を聞いているので、招待がなくとも琴子さんが選んだ式をしたらいいよ――と理解しています。だけれど私達女性側の友人は、とくに琴子さんと同級生の先輩達は『琴子には祝ってもらったのに、私達が祝えないのは寂しいね』と言いだして。それに『走り屋の旦那さん』をじっくり拝みたいんですよねー」
 友人達の気持ち。そして女性達の好奇心から出てきた企画――ということらしい。
 走り屋の旦那を拝みたいは、ちょっと引っかかる英児だが、『琴子にお返しがしたい』という友人達の気持ちは無にしたくなかった。
「ありがとうございます。自分も、野郎共には琴子を紹介する機会がなかなかなくて。飲み会で集まっては『式に招待しないなら連れてこい』と言われます。ですけど、俺の場合……その、けっこう大所帯で」
 元ヤン同級生に、走り屋時代の知り合い。現在の店を通しての走り屋知人もいて、とにかく英児が一声かけると、あちこちから集まってきてしまう。どこまで招待をしてどこまでを我慢してもらうか。その境目も分からない。琴子が持つ『家族親族、同僚友人』とはバランスが取れず、それもあって『内輪で』に決めたのだから。
 ところが、またまた紗英の眼差しがきらきら輝きだす。
「そっちも楽しみ! それって元ヤンさんに、走り屋さんが集まるってことでしょう!」

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