ワイルドで行こう

 会ってみたいーー、話してみたいーーと、なんだかそれが目的のような紗英に、英児は目を見張ってしまう。それでも紗英はどんどん話を進める。
「琴子さんの友人代表幹事は私がすることになっています。それで、滝田社長側の友人代表幹事を選出して頂きたいんです」
 すっっげー、話が早っ。これって俺以上に弾丸なんじゃね? 英児はおののいた。
 しかしそんな英児の戸惑いなどそっちのけで、側で控えていた武智が急に手を挙げ割って入ってきた。
「それ面白そう。俺、タキさん側の幹事に立候補」
「ほんとうですかー。あ、もしかして。滝田さんの後輩の武智さん? 琴子さんから聞いています、社長さんの高校時代の後輩だって」
「そうです。俺も後輩だから、後輩同士でどうかな」
 そう言って、武智はもう携帯電話を手にしている。それに合わせるように紗英までも、携帯電話を手にしている。
「琴子さんの親族披露宴は、ざっくばらんな家族会食を考えているようなので、友人側は洒落ていても砕けている立食パーティーとかどうです?」
「いいね。会費をちょっと積んでもらって。こっちの野郎共は大食らいだし人数いるから、それがいいかな」
 なんて話しながら、赤外線でもう番号を交換。なんという手早い後輩達?
「そんな感じでもいいよね。タキさん」
 武智の眼鏡のにっこりに、英児はつい『うん。任せる』と頷いてしまっていた。


 ―◆・◆・◆・◆・◆―


 二階自宅の窓辺に、新しい仲間。『ワイルドストロベリー』。
 彼女の指先が愛おしそうに緑の葉を撫でながら、霧吹きで水を与えている後ろ姿。
 就寝前で白い冬用のガウンを羽織っている彼女の側に、英児も寄ってみる。
「気に入ったみたいだな」
 入籍して数日、すぐに届いた後輩からのお祝いに、琴子も嬉しそうだった。
「紗英ちゃんは、いつも気が利くの。幸運の苺なんて素敵。早く、もっといっぱい実がなって欲しい」
 遠く小舟の漁り火が揺れる夜の内海が見える窓辺。そこで妻になった彼女が鉢植えを世話する姿を、英児はじっと見つめる。
「ほんとう、可愛い実ね」
 ひとつだけ実っているイチゴを、琴子も可愛くて仕方がない様子で手放さない。琴子がそのイチゴに触れるたびに、あの匂いが英児の鼻先に届く。
「琴子……」
 まだ湿った黒髪、風呂上がりで火照っている肌。しっとり熱ぽい彼女の身体を、英児は後ろから抱きしめてしまう。
「そのイチゴ、いい匂いだな」
 そう言いながら、英児は抱きしめる琴子が羽織っているガウンの腰ひもをといてしまう。

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