ワイルドで行こう

「英児さん、」
 手早い英児にはいつも敵わない琴子。彼女が戸惑うその時にはもう、英児は彼女の肩からガウンを滑り落とし、胸元をはだけさせてしまう。
 そして琴子も。いつもと違う。ガウンの下は、今までのようなきちんとしたパジャマでもハウスウェアでもない。白いキャミソールに、ショーツだけ。そんな薄着で寝る準備をしているのは――『新婚』だからだった。
「俺、そのイチゴの匂いをかいでから、ずっと興奮している」
 薄いキャミソールをさっそく、なめらかな腰と肌に手を滑らせ英児は上へとめくってしまう。
 ふんわりとぬくもりに溢れている乳房へとすぐに辿り着く。海が見える窓辺なのに、英児はお構いなしに琴子の乳房を丸出しにしてしまう。
「……だめ。そんな、毎晩、興奮しているくせに。今夜だけ?」
 毎晩。その通りだった。入籍した晩から、琴子の実家だろうが、この龍星轟に帰ってこようが、夜という夜は琴子と毎晩抱き合ってしまう。
 だから、琴子も『薄着』で準備を済ませている。すぐに旦那が脱がせられるように。直ぐに素肌を重ねられるように。彼女もその気で夜を迎えてくれている。
 でも。今夜も女房を欲するが、それでも今夜は違う。
 英児の止まらない手を、手首を琴子が戒めるようにぎゅっと掴んで止める。その肘が、もらったワイルドストロベリーの緑葉にあたり、またふわっと英児の鼻に鮮烈な野生の香りが届く。
「琴子、ことこ」
 か弱い彼女が止める力なんて、龍の男には意味がない。そのまま窓辺でふたつの柔らかな乳房を両手でゆっくり掴んだ。
「やだ、ここ……窓、みえちゃう」
 琴子の手が窓辺に伸びる。英児に乳房をゆっくりゆっくり揉まれている琴子の手が震えている。その手でやっとカーテンを掴んで閉めてしまう。
 遠く煌めいて見えた夜の海が視界から消えたのと同時に、英児は琴子をぐっと正面に向かせ胸の中にぎゅっと抱きしめる。
 そして胸元に収まる彼女の顔を見下ろし、唇を探す。顎の下からじっと潤んだ眼差しで見つめてくれる彼女をみつけ、そこにある小さな唇へ。
「う、ん……エイジ・・」
 小さなうめき。彼女の黒髪をかき上げると、あの匂いがする。英児がみつけた夜のあの匂い。
 似てる。やっぱり似ている。ワイルドベリーと似ている。だから、昼間、初めて知ったイチゴの匂いなのに、よく知っている匂いで、好きな匂いだから興奮した。
 そっか。俺が好きな女の子の匂いって。これだったのか。俺が愛している琴子の匂いはこれだったのか。
 まるで覚醒させられるようだった。『お前はこの匂いを嗅ぐと、男の本能が騒いでたまらなくなる。淫らになるんだよ』。イチゴを食べに来たヘビに囁かれているようだった。

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