ワイルドで行こう

「いや、エイジ……いや……」
 なにが嫌なのか。虐められるのが? 愛されるのが? それとも待たせているのが? どっちにしろ意地悪な龍は、ヘビに教えてもらったとおりにじっくり長く味わうと決めている。
「今日……は、イジワル、」
 小さく息を弾ませている琴子が、意地悪な舌先に震えてゆるく首を振っている。まだ湿っている黒髪がくしゃくしゃと彼女の頬をくすぐっている。乱れたその毛先が彼女の小さな唇に触れ、偶然噛みしめてしまったその顔がまた淫らな女にしていく。
「もう、ここじゃイヤ」
「わかった」
 ひとまずお預け。最後のイチゴが真っ赤に熟すまでには、まだまだ。英児はもう脱力している彼女を乱れた姿のまま抱き上げ、寝室に連れて行く。
 ――新婚、五夜。
 今夜も、龍の男は自分の巣穴に、イチゴを持ち帰る。寝床にボンとイチゴを放ると、もう味見という味見をされつくした彼女が力無く横たわるだけ。
 龍の唾液に濡れたまま、もう食べられるだけしかないイチゴは静かなまま。そこに全裸になった英児は上から琴子に覆い被さる。胸元で息を弾ませている彼女の黒髪をかき上げ、顔を覗いた。額も汗ばんで、頬は赤くて、伏せているまつげが小さな涙に濡れている。
「な、俺。興奮していただろ」
「うん……。どうしたの」
「だから。あのイチゴのせいだって」
「よく、わからない……」
 説明は面倒くさい。英児はそのまま琴子の唇を塞いで、今夜も彼女の足を遠慮なく大きく開く。
「やっぱり、琴子はすげえ、いい匂いだよ」
 これがずっとずっと、自分の傍にある。その約束をしたばかり。
 龍の巣穴に持ち帰られたイチゴが、また濡れていく。龍の唾液に身体中とろとろに溶かされて、真っ赤に熟して、いつまでも味見をされて、なかなかひと思いにしてくれないと泣いている。
 最後に、龍ががぶりと彼女にかじりついて、奥の奥まで貫いて侵す時。彼女から甘い汁がぽたぽたとこぼれていく。そして、この男にしかわからないこの女の匂いが充満する。
「ほんと、お前は甘い。俺の中でいちばん甘いんだよ」
 ちょっと虐めすぎたのか。彼女が掠れた声で『やりすぎ』と儚い抗議をしてきたが、そっと胸元に抱きしめて黒髪を撫でると彼女からも抱きついてくる。それで許してくれるイチゴは、優しいと思う。
 こんな時の彼女はやはり野趣あふれる香りを放つ、ワイルドベリーなのかもしれない。
 これがずっと英児の腕の中。何度も、巣穴に持って帰って食べ尽くしても、また彼女は香りで誘って『食べに来て』と笑ってくれるのだろう。
 そうだよ。意地悪なヘビを誘っているのは、甘い匂いで誘うイチゴのほうだろ。女だってデビルじゃねえかよ。英児はふとそう思ってしまった。


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