ワイルドで行こう

 それから暫くした月半ば。雅彦がついに『ドラゴンとワイルドベリー』をモチーフにしたデザインサンプルを持ってきた。
「いかがですか。数パターン、揃えてみたんですけど」
 また事務所応接テーブルに広げられた原稿を見て、英児は絶句し、そのうちのひとつを迷わず手にしていた。
「あ、そういうの。好きそうですよね。なんかそんなイメージありそうだなあって」
 雅彦も自分で納得のデザインなのか、英児が一発で手にしたので嬉しそうだった。
 だが英児はまたビリビリッと震えていた。
 そのステッカー。ドラゴンがワイルドベリーをかじっているイラストだったのだ。コケティッシュでコミカル、色遣いも女性が好みそうなパープルピンクがベース。龍は真っ黒、苺は真っ赤。緑の葉がアクセント。そしてかじられてしまった苺を離さない龍の尾の先が、苺の尖りにちょろっと巻き付いていたりして。
 これって。この前の俺じゃん、食べられていた琴子じゃん。そう思った。
 英児は思わず、雅彦を睨んでしまう。元カレのくせに、前カノが新しい男に食べられて侵されて束縛されているイメージを平気で描けたのか――と。
「あ、の……。もしかして、それ。嫌でしたか」
 この男。もう琴子のことをなんとも思っていないんだ。だから、こんなに突き抜けた。
 そして英児のことも、男としてよく見ている。そう思った。だから。
「参りました」
 何故かガラステーブルに手をついて、雅彦に頭を下げていた。
「え、あの」
「これドンピシャです」
 この男はデキるデザイナー。それ以外はもう、なにもない。きっちり英児の要望に応えてくれた。
 可愛い私を食べてね。男も可愛い子は食べちゃうぞ。
 車屋に来る可愛い女の子、車屋に集まるカッコイイ野郎共。ここはそんな店。それが雅彦のイメージ。
「有り難う、本多君」
「いえ。気に入って頂けて嬉しいです」
 男同士、手を握り合った。
 龍星轟の奥さんのシンボルは、ワイルドベリー。それが街中に飛び出していくのも、もうすぐ。

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