ワイルドで行こう
厳かな神前式。神主の前に白無垢綿帽子の彼女と紋付き袴姿の英児が並ぶ。
真っ赤な杯で、三三九度――。
琴子の小さな唇が、婚姻の杯を交わしてくれる。その唇がまた妙に艶めかく見とれてしまった、なんて言うと不謹慎なのだろうか。神さんに怒られるんだろうかなんて思ってしまった英児。
指輪の交換も、英児が緊張していた。
ぴったりの結婚指輪を用意したのに。小さな手、細い指なのに節でひっかかってなかなかはめられない。
楚々とすましている琴子が、綿帽子の中で密かにくすっと笑ったのが見えた。
「悪い……」
こんなことがぶきっちょで――。
「大丈夫よ」
ひっかかっている節を琴子が上手に曲げ、銀の指輪がすっと最後まで入るように、さりげなく動かしてくれる。
「これからも助け合って。よろしくお願いします」
はめられた指輪じゃない。二人の意志ではめた。琴子もそれを手伝った。これからも、こうしてやっていきましょう。妻になった彼女からの言葉が、英児にもじんと伝わってきた。
「ああ、そうだな」
今度は琴子から、英児の指に銀のリングを通してくれる。英児も琴子を見習って、はめられるのを待つだけではなく、自分も指を動かしてみる。
杯を交わし、これにて晴れて夫妻となる。
神社の境内での記念撮影。後にその写真を眺めるたびに、英児は頬がほころんでしまうことに。この日、たった一度だけ白無垢姿になった琴子がずっと忘れられないほど、お気に入りになる。
後にも先にも一度だけしか着ることが出来ない彼女に似合っている白無垢。そして可愛い真っ赤な唇。本当に綺麗だったと、何年も――。ずっと。
―◆・◆・◆・◆・◆―
挙式を無事に終えても、慌ただしい。今度はモーニングに着替え、移動。
この時、英児は琴子と引き離される。
勿論、モーニング、ドレスへとお色直しのために。そして、その後、それぞれで漁村へ向かうことになっていた。
何故、着替えた後も誓い合ったばかりの花嫁と仲良く一緒に移動ではないのか? 実はこれ、武智の仕業だった。
琴子が結婚式のイメージを固めると、どんどん準備が進んでいった。
挙式をする神社の予約さえ決まれば、あとは親族と勤め先の関係者のみの披露宴。会場は漁村マスターの喫茶レストラン。大々的な準備ではないので、招待状も僅か、あっという間に整っていく。
そんな結婚式の経過を聞いていた武智が、『琴子は教会でやりたかったが、父親がいないので……神前にした』と話したところ、急に武智が『それなら、俺がちょっとしたヴァージンロードを用意してあげるよ』と言いだしたのだ。