ワイルドで行こう
それに琴子曰く。『やっぱりマスターって。元は凄腕のバーテンダーさんだったんじゃないかしら。なんだか顔が広いの。手伝うと約束していたのに、手伝わなくてもいいほどのアシスタントを連れて来ちゃうんだもの』
それが何事にも『手伝う』と言い出す琴子の性分を知って『わざと手伝いをさせない』ように持っていってくれているのだと、英児は感じた。
『当日のお手伝いも、いつも村の仕出しを一緒にするおばあさん達とか漁村の奥さん達に頼んでくれていたの。マスターがお願いすれば、いつも手伝ってくれるんだって』
しかも、ウェディングケーキを作ってくれるパティシエとも琴子は喫茶で対面したらしく、そのパティシエがこの街でいま一番噂のカフェ洋菓子を一手に引き受けている女性だと知って、琴子がまた絶句して帰ってきた。
『すっごく小さなお店なんだけど。いま、この街の女の子の間ではとっても話題のカフェで……。私も時々行っていたお店』
毎日限定量しか作らない丁寧なドルチェ。その丁寧さを求めて、ここ二、三年で口コミで広がっていったカフェ。そこの女性パティシエだったとのこと。それがあの漁村喫茶マスターの知り合い?
今日は手伝いの中に、マスターと同じくタキシードにソムリエエプロンをしている青年と、ワンピース姿にエプロンをしている綺麗な女性も混じっている。
「彼、腕は確かだから。今日は僕と一緒にお酒のお世話をさせてもらうよ。彼女は島の果樹園のお嫁さん。いつも彼女の所から果物をもらっているんだ。彼女の所に通っているお陰でね『カフェ・ミーチャ』のパティシエを捕まえられたんだ」
――とのこと。琴子はそれを知ってからとても感激していた。たぶん、飛び込みで申し込んでもこんなツテがない限り、予約で一杯か、そもそも予約も取ってくれないほどのパティシエ。お店の製菓に精神を注いでいるパティシエさんだから。と。
これも、英児さんがマスターと知り合いだったおかげ。ありがとう。
本当に琴子が幸せそうで。英児は自分に感謝されるのが申し訳なく、紹介してくれた矢野じいにも報告し、そしてマスターには何度も礼を述べておいた。そして、今日も。
「おっさん。ほんとに有り難う。俺、まさか、おっさんのところでこんなになるとは思わなかったし、でも、おっさんのところにお願いできてどこよりも正解だったと思っているんだ」
「もう、いいよ。何度もそんな。今度は親子でおいで。僕、独身で終わりそうだから、賑やかなチビちゃん達が遊びに来るのを待っているよ」
そこまで言われ、英児はついに目頭が熱くなってしまう。