ワイルドで行こう

 そして、矢野じいの手添えで、後部座席から白い手袋の手が見えた。そして、ふわりとした白いベールが風に誘われ舞いながら空へと流れるのが見えた。それだけで、花道にいる親族知人が『わあ』と歓喜の声と拍手で湧いた。
 その中、ふんわりとした白いドレス姿の花嫁が楚々と降りてくる。琴子が母親鈴子と一緒に見立てた『いまの私に一番似合うドレス』姿だった。
 彼女の雰囲気にぴったりの、ふわふわした優しい白いドレス。
 白無垢は綺麗だったが、ドレスは可愛い彼女だったので、英児はまた惚けてしまう。
 皆様、拍手でお迎えください――。武智の声に皆が到着した花嫁を迎えてくれる。
 鈴子母が親族と合流し、ついに武智が作ってくれた花のヴァージンロードの向こうに、矢野じいと腕を組む白い彼女が立った。
「綺麗だよ、琴子。おめでとう!」
 直ぐ側にいる三好ジュニア社長のかけ声に、琴子はもう泣きそうな顔になっている。
「泣くな、琴ちゃん。化粧が落ちるぞ!」
 三好堂印刷の兄貴達のかけ声で、琴子もグッと堪えて、幸福の微笑みを見せている。
 矢野じいも、そんな琴子の隣で今日はカチカチではなく『俺が支えてやらにゃあ』みたいな意気込みなのか、落ち着いて琴子をエスコートして歩き出す。
 春の可憐な花に囲まれた道を、琴子がゆっくり歩いてくる。
「琴子、おめでとう」
「琴子ちゃん、おめでとう」
「琴子さん、綺麗よ。おめでとう」
 大内滝田両家の親族や龍星轟の兄貴二人にも声をかけてもらい、琴子が笑顔を返している。
 そして最後。英児のすぐ側に立っている頑固な顔つきの男の前で、琴子から立ち止まった。
「滝田のお義父様」
 英児の目の前にいたのは、滝田の父だった。英児へと辿り着く前に、琴子はちゃんと英児の父親の所に頭を下げてくれる。
「なにも持っていない私ですが、精一杯やっていきますので。どうぞ、よろしくお願い致します」
 矢野じいまで一緒に頭を下げてくれる姿は、知らない人が見れば本当に父娘に見えてしまうほどだった。
 黒い礼服姿の父も、今日はにっこり。
「こちらこそ。堪え性なく聞き分けなのない悪ガキに育てましたが、どうぞせがれを頼みます」
 いちいち気に障る言い方をする実父だが、琴子や矢野じいよりも深く深く一礼をしてくれる姿に……。甘やかしてはくれない父親ではあったけれど、やはり自分の父親。今日の日を今か今かと待っていたと、兄と義姉から聞かされていただけに。英児も滝田の父と共にこちらも歴とした父子として一礼をする。

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