ワイルドで行こう
娘が紺色の車で、龍星轟を出て行った。彼女が最初の車に選んだのは、トヨタのMR2。ウィングの下トランクには、三つのステッカー。『龍と星の龍星轟ステッカー』、『ワイルドベリーと龍のレディスステッカー』。そして、苺をくわえた龍の後を羽がついた天使がついてくるように飛んでいる『エンジェルステッカー』。
実はこれ。雅彦が小鳥の大学合格と免許取得を祝いデザインしてくれたもの。それはこの一枚だけ。小鳥だけしか貼っていないステッカーだった。
そんな娘の車を見て、琴子が言う。
「あのステッカーを見た走り屋の男の子達は、そうは乱暴にはしないでしょう」
父親、母親、自分を象徴したステッカーを貼っているのは小鳥だけ。龍星轟の娘という証拠。走り屋野郎共なら必ずくる店の娘。そこの強面な元ヤン親父を知っている男なら『俺に喧嘩売れるもんなら、売ってみろ。覚悟して来い』と、ステッカーから吠える声が聞こえてくるはず。つまり、三つのステッカーは良い魔除けでもある。
十八歳、大学生。いつまでも縛ってはおけない。はらはらしながら、走りたいという娘を見送ってしまう。
だが、同じ女として琴子からもきちんと諭しているらしく。『門限は守ること』、『グループ集会参加はまだ禁止』、『峠エリアでは車からは降りない』などを二十歳になるまではと約束させているとのこと。これを破ったら、運転禁止。車取り上げ。事務所とガレージの立ち入り禁止。だと、優しいママが頑として言い張ってくれているらしい。
ブウンと、娘が運転する車のエンジン音が徐々に遠のいていってしまう。これが何故か、最近……せつない。