ワイルドで行こう
「大丈夫。あっちでオッパイを飲ませてみるから。パパは眠って……」
「泣きやまなかったら言えよ」
それだけ言うと、彼は自分の背中にひっついている娘を見つけて嬉しそうな顔。彼女を今度は胸の中に抱きしめ、満足そうな笑みのまま寝転がった。
リビングのソファーで泣きやまない息子に、とりあえずオッパイを吸わせてみる。なんとか吸い付いてくれ徐々に泣き声がやんだ。琴子もホッと一息。
小さな息子の黒髪を撫でながら、胸に吸い付いて小さな手で掴まっている姿を見ただけで微笑むことが出来る。どんなに眠くても……。そして、先ほどの夫の嬉しそうな顔。娘がくっついて眠っているぬくもりに。あの寂しそうだった兄貴が、いまは幸せそうなパパの顔。娘が可愛くて仕方がなくて、彼女が『パパ、パパ』とひっついてくると、もうどうしようもないほどの笑顔。
そう思うと、琴子も『産んで良かった』と思える。二人目の息子が生まれた時も、英児はとても喜んでくれた。
だから、どんなに、眠くても……。
息子もおっぱいに吸い付いたまま、うとうとしている。そして琴子も……。
『うわーん、ママ!』
はっと目覚める。だけれど胸元の息子は静かに安らいでいる。気がついたのは寝室。今度は娘が泣いている?
聖児を胸に抱いたまま、琴子が立ち上がろうとした時だった。
寝室のドアが開き、英児が娘の小鳥を抱いて出てきた。
「ほら、小鳥。ママはここにいるぞ」
うわーん、うわーん。いやいや!!
「小鳥ちゃん、ママここにいるわよ」
だけれど娘も泣き叫び止まらなくなる。むしろ乳飲み子の息子より、反抗期にさしかかっている娘の方が融通が利かない時期。
一度、ぐずったらなかなか泣きやまない。側にママがいなくて怒って、本当にママを見つけても、『その時にいなかったこと』でずっと泣いているとわかっている。
パパの腕の中でギャンギャン娘が泣く。
「ふえ、えっ、」
「あー、セイちゃんが起きちゃった」
琴子の胸元の息子も、せっかく落ち着いたのにむずがり始める。