ワイルドで行こう

「琴子」
 彼の唇は煙草の匂い。舌先はちょっと苦くて甘い。そうして愛してくれるから、琴子も負けずに彼を愛す。
 そして変わらない彼の手。
「もう、ここ、外……だめ」
 と抗議したところで、夫の英児は恋人の頃から変わらず。琴子にキスすれば、それも『ワンセット』をばかりに琴子の乳房を目指して手を突っ込んでくる。
 パーカーとタンクトップの下へ滑り込んだ手が、琴子の肌を伝ってのぼり、大きな手が乳房を柔らかに掴んで揉む。そんな相変わらずの手。
 キスをしながら、彼の肌への愛撫。海辺の人も通らないような漁村の影で。小雨の中ひっそり交わす夫妻、ううん、男と女のひととき。
 だけれど途中で英児が唸った。
「うーん、うーん。俺が好きなオッパイじゃない。早くあのふわふわオッパイに戻って欲しい」
 また言いだした。これは最近、彼が琴子の乳房に触れると必ず言うことだった。
「しょうがないじゃない。授乳が終わるまで待ってよ」
「わかってるけどよー。ママのオッパイなんだよなー。すげえ張っていてでっかくかんじるけど、ふわふわな女のオッパイじゃなくて、パンパンのママオッパイなんだよなー」
 そう言いながらも強く揉むんだりするので、琴子はちょっと睨んでしまう。
「もう、おしまい」
 不満そうな英児の手首を掴んで、無理矢理離した。
「怒るなよ」
「怒っていません。母乳のオッパイは優しくしてくれないと、張っているから痛いの」
「悪かった。うん、悪かった」
 ぷんとそっぽを向く琴子を、英児が捕まえるように背中から抱きしめてくれる。
「もうちょっと待って。セイちゃん、あと少しで母乳から離れると思うから」
「うん。楽しみに待っている」
 そうしてまた目を合わせて微笑みあっていると、後部座席からジッと見つめる視線に気がつく。
 娘が目覚めていた。それをふたりで気がついてハッと我に返る。
「帰るか」
「そ、そうね」
 今度の娘は大人しく目覚めてくれたようで……。

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